二人の天使〜即位の夜
From Angelique Special2
to Angelique Trois

「ねえ、レイチェル」
「なに？
　アンジェリーク」
「……宇宙の女王って……なんだと思う？」
「……それ、イマ聞く？」

　……聞かれた少女、レイチェルの返事も、無理のないことでした。

「……そうだよね」

　そう言って、話を終えようとするアンジェリーク。
　けれど、レイチェルは続けました。

「……まあ、でも、わかるよ。マリッジ・ブルーじゃないけどさ。
　新宇宙の女王になるって宣言して、即位して……明日には、新宇宙に旅立つんだもん。
　いくらヴィクトール様やセイラン様、ティムカ様との勉強や
　今までの育成で、わかってる、わかったってつもりでも……
　なんとなく、不安って言うか迷いって言うか……そういうの、あるよね」
「……レイチェルも？」
「もー、意外そーな顔で言わないでよ。
　あるよ、ワタシだって。
　……ワタシは補佐官だけど、それでもこれから、やることいっぱいあるんだからさ。
　少し違うけど、女王のアンジェリークも、そうでしょ？」
「……うん」
「……でもね、アンジェリーク。こういう考え方もあるんだよ」
「なに？」
「……もしね、本当にもう無理、もう嫌ってなったら……女王、やめちゃってもいいんだよ」

　レイチェルの言葉に、思わず驚きの声をもらすアンジェリーク。
　逆にレイチェルは、落ち着いた様子で続けました。

「……わかってる、アンジェリーク。アナタはそんなことしない。
　もしかしたら、考えもしない。
　……でもね、だからこそ……そういう選択もあるってコト　
　そういう選択も許してあげる……ワタシがいるってコトが、大事なの。

　……ワタシさ、もともと超優秀な宇宙の研究員だったじゃん？
　だから、試験のこともあるけど……女王や宇宙について、いろいろ知ってるんだ。

　……長い歴史の中にはね、女王がいない宇宙……ってのもあったんだって。
　でもね、それでも……宇宙はゆっくりとだけど、ちゃんと成長した……そういうことも、あるんだって。
　……もちろん、逃げだしたくても無理、頑張らなきゃってコトも、いっぱいあるけど……
　一休みしても、投げ出しちゃっても、大丈夫……ってこともあるんだよって。
　……そーいうね、どっか気持ちが抜ける場所、余裕ってのもね、大切、必要なんだよ。

　ダイジョーブ！
　もし何かあっても、王立研究院始まって以来の天才少女、レイチェル・ハート！
　……このワタシが、アナタのそばにいるんだから。

　すっごく優秀な補佐官、おまけに元、女王候補！
　……こんな頼れる相手、いないっしょ。

　何があっても、ワタシがなんでも、どーにかしたげる。

　あなたにとって必要な愚痴ならちゃんと聞いて、共感して慰めてあげるし……
　それはないって愚痴なら……ハッキリそー言ってあげるよ」
「……そこは、はっきり言っちゃうの？」
「ま、ね。だって、ワタシたち、親友じゃん？」

　二人の、年相応の少女の笑い声が、部屋に響き。
　暗いはずの部屋まで、少し明るくなったような気がしました。

「……ありがと、レイチェル」　
「……いいよ、お礼なんて。
　これから、いっぱい不安とかもあると思うけどさ。二人ならきっとダイジョーブ！

　……それに、きっと同じぐらいか、もっとずっと……不安よりも、楽しいコト、たくさんあるよ。
　……だって、ワタシたちが二人、いるんだしさ。

　それに、もしもね、それでも、二人でもどーしようもないってことがあったら……
　ワタシたちの宇宙、アンジェリーク様もロザリア様も
　守護聖の方々も、教官や、王立研究院のみんなも……きっと、めいっぱい力貸してくれるよ。

　……もし、アナタがやっぱり好き、会いたいなーなんて人がいるなら……
　困ってるフリしちゃうのも、いいんじゃない？」
「……もう、レイチェルってば」
「フフ、だから、心配いらない。
　ワタシたちの未来はね、どうあがいたって明るいんだから。
　……ね、アンジェリーク！」

　同じ女王候補で、ライバルとして競い合い、そして、共に新しい宇宙を育むことになった親友で。

　二人の少女は、故郷の安らかな闇に包まれながら、明るい未来を胸に抱き、明日への眠りにつきました。
　新しい宇宙の行く末を握るとは思えない、とても安らかな……天使のような寝顔で。