疑問

　――どういう、理由かな。

　……コロナの街の、酒場の二階。
　冒険者の街とさえ称される、コロナの街の酒場の主人、元冒険者の男の好意で、冒険者に与えられる、無数の部屋の一つの、二人部屋で。

　二つ並んだベッドの上で、そう問われた部屋の住人の片われ……緑の色をしたかえるは、うーん、と声をもらして考え込んだ。

　……冬も本番。
　かえるの身としては常に眠くなりそうな、厳しい寒さのその中で。
　二人部屋の、もう一人の住人……今現在の部屋の主人とも言うべき、かえると共に暮らす冒険者は、いつもより少し、長い冒険から帰ってきた。

　そして、やわらかいベッドでぐっすり眠って疲れをとると、いつものようにかえるに冒険の話をし……その途中、ふと、呟いたのだ。

　――これはどういう理由だろう、と。

　……冒険者、かえるの同居人の、そこに至るまでの話は、こうだった。

　冒険の途中、悪い領主の館へ行くことになり……中へ入ると、館にはたくさんの魔物がひしめいていた。その魔物を倒しながら、領主を探して進んでいくと、途中、不思議な文が書かれていたと言うのだ。

　文の内容は『自分に会いたければ、こうしろ』……そういったものだった。

　多少不安はあったが、他に手がかりもない。そこで、同居人がそこに書かれていた方法を試してみると……本当に、その方法で開いた扉の先に、当の領主がいた、と言うのだ。

　もちろん、相手は悪い領主。同居人に自分がした悪事を語ると、強い魔物をけしかけ……その魔物が敗れると、一目散に逃げ出した。……その態度、および現地の住人の話からして、彼が悪者であると言うことは、疑いようがない。

　……ただ、そこまで話して、同居人は気になったそうなのだ。

　――どうして、悪い領主は……わざわざ、自分の居場所を知らせるようなことをしたのか、と。

　悪者なのだから、訪問者への親切と言うこともないだろう。……そうでなくても、そのときの同居人と言えば、一介の侵入者。たとえ先に入った相手を助けるため、とのっぴきならない理由があるとはいえ……親切な人でも、まともな態度を期待できない立場であることは間違いない。

　何より、悪者なのだから……自分の居場所など、教えない方がいいに決まっている。
　むしろその情報を信じ、やってきたものを罠にかけるぐらいが普通、安全なところから訪問者を観察し、魔物をけしかけるぐらいが妥当だろう。
　……何も直接対峙し、あまつさえ悪事を告白する必要など、どこにもない。

　考えてみればおかしい……と、同居人は思わず、かえるに尋ねたのだと言う。

　……聞かれたかえるも、確かにおかしい、と考え込み……浮かんだ答えを、とりあえず口に出してみた。
　自分の居場所を教える理由、それは……

　――たとえば、誰かに会いたいとき、探してほしいとき……誰かと、話したいとき……

　……もし自分が悪者だったとしても、そのあたりは変わらない、そんな気がする、とかえるは続け……

　――話したかった、のかな……

　それを聞いた同居人が、小さくそう呟いたとき、かえるはもうひとつ、思いついたことを口にした。

　――後は……もし自分が何かしてる、しようとしているのなら……
　　　　誰かに、見てほしい知ってほしい……そして、止めてほしいとき……

　かえる自身に、止めてほしい、そんな経験があったわけではないけれど。……ただ、なんとなくそんな気が……そんなことも、ある気がして。ふと、そんなことを呟いた。

　答えを聞いたかえるの同居人は、少し、目を見開いて。

　――そうかも、しれない

……そう呟き、そして、続けた。

　――そうだと、いいね

　……誰に向けるでもなく呟いたその言葉に……かえるは一声ないて、頷いた。

―fin

（以下コメントにつき薄字・見たい方はマウスでドラッグしてください。）

　リプレイ時のちょっとした思いつきとつっこみから書いた話です。短いせいか、30のお題のときに書いた主人公とかえるくんイメージが入ってるかもしれません。
　ささやかな話ですが、お付き合い、ありがとうございました。