to be continued

　「見つけた……！」

　森にかこまれた、大きな泉。
　そのほとりに、今、一人の男の声が響いた。

　大柄な体を鎧につつみ、肩からは長いマントをたらした男。
　男は青い目を見開いて、泉のそばで立ち止まっている二つの影を見つめている。

　そこにいたのは……一匹のかえると、小さな白い竜。

　荷物にも見える、くるりと巻いた葉っぱのくきを握ったそのかえるは、突然の出会いに脅えることもなく、自分を見つめてしっぽを動かす白い竜を、興味深げに見つめている。

　小さな音をたて、白い竜が羽を揺らして宙に浮くと、二人の男が茂みを揺らし、森から姿を現した。

　最初に声をもらした鎧の男と、もう一人。

　……切れ長の、鋭いと言ってもいい目つきをした、赤い目の男。その体躯が小さく見えるのは、鎧の男が大柄なせいばかりでもないだろう。

　「……気をつけろよ。
　　逃がすなとは言ったけど、傷つけたらなんのシャレにもならないぞ」

　そう言って、強い口調で鎧の男に釘をさす。
　言われた男は、わかってるよ、と口を尖らせると、自身のマントをひきぬき、自分たちをじっと見ていたかえるにかぶせた。
　突然の暗闇に、かえるが小さな手足をばたつかせる。

　男はそのままマントでかえるをくるむと、袋のようにして、その口を手で持ち、そのままかえるを地面に軽く置いた。

　「……これでいいんだろ」

　赤い目の男は、不満そうにため息をついたが、すぐに目を閉じると、何かを呟き、細い指を動かした。
　その途端、マントにつつまれ、もがいていたかえるの動きがぴたりと止まる。
　それを見た赤い目の男は、鎧の男と顔を見合わせ頷くと、口と指を動かしたまま、マントに近づき始めた。

　一歩一歩、男が地面を踏むたび、光の柱が生まれ、消える。
　そして、マントの口から手を伸ばし……かえるの体に、男の指が触れた、その時。

　激しい光があふれ、暗い空をついた。

　それはまるで雷のように太く、まぶしく、泉から遠く離れた場所にいた者さえ、空を見上げるほどだった。

　空と地をつないだ光の発生点、中心となったその場所。

　一瞬であふれた太い光は徐々に細くなり、そして、消える。
　そして、その光が消えた時……かえるは、姿を消していた。

　代わりに、そこにいたのは……一人の人間。

　ぱちぱちと、目を瞬かせ、人の形をした自分の手足を、不思議そうに眺めている。

　「やったあ！」

　その姿を見るや否や、マントをかぶせた赤い髪の男は、喜びの声を上げると、勢いよく人の姿になったかえるの肩をつかんだ。

　「おい！やったな！
　　オレのことわかるか！？なあ！」

　そう言って、勢いあまって肩を揺らす。

　「おい、無茶するなよ！
　　まだおれたちの記憶があるかどうかわからないんだぞ！」

　赤い鋭い目の男……濃い青の髪をした、ローブ姿の男は、赤い髪の男の手をひきはがすと、マントの上からもう一つ大きな布を、目をぱちくりさせているかえるの体にかぶせた。

　「……おい、大丈夫か？
　　おれたちのこと、わかるか？」

　人の姿になったかえるは、しばらく自分の体と男たち、そして白い竜を見くらべてから、小さく、ゆっくりと唇を開けた。

　「アルター……に……マーロ……と……チビ……ドラ……？」

　一瞬の、静寂。
　そして、

　「よっしゃあー！」

　アルター、そう呼ばれた赤い髪の男の歓喜の声が、森中に響き渡った。

　「……ここ、は……？」

　渡された布を体に巻きつけたまま、人の姿に戻った若者は立ち上がり、ゆっくりとあたりを見渡した。

　森と泉。
　自分を見る、二人の仲間と、小さく幼い、竜の姿。
　……その一つ一つに、見覚えがあるのは、自分でもわかった。

　若者は目を閉じ、これまでの出来事を、この状況に至るまでの流れを思い返そうと努力する。

　――……この泉。
　　　そう、この森で、賢者と出会った。

　呪いにかかり、かえるになり、記憶を失くしてさまよっていた若者を、賢者は見つけ出し、そして人の姿に変えてくれた。

　その後、賢者に導かれたどりついた街、コロナ。

　――そのコロナで、この二人……アルターとマーロに出会った。

　赤い髪と鎧、それに赤いマントと、赤づくしで、声と体が大きく、それでいて人なつっこい、そんな笑顔を持った戦士、アルター。
　男性にしては線が細く小柄で、濃い紫のローブに身を包んだ、少し大人びて見える魔道士の少年、マーロ。

　二人も含めた、コロナでの出会いと生活。
　なくした記憶をさがした、仲間たちとの冒険の日々。
　そして……。

　「……神竜の、鏡……！」

　思わず口から飛び出た言葉が、ゆるやかだった記憶のスピードを加速する。

　――……自分にかけられた呪い、
　　　それが竜の呪いとわかり、手がかりとなる竜を求めて冒険するうち……
　　　この小さな白い竜と出会った。

　白い竜……チビドラは、神の使いといわれる神竜の幼生で、神竜の力を封じた鏡のかけらを持ち、神竜を信仰していた、滅びた城に若者を導いた。

　今はただのかけらにすぎなくても、すべてを集め、城の中心の台座に戻せば、神竜の鏡は修復される。そして神竜の鏡が完成すれば……失われた神竜の力はよみがえり、呪いが、解けるかもしれない。

　そう告げられ、希望を抱き、若者は鏡のかけらを集める冒険を続けた。

　――……けれど、その鏡の力を狙う者たちが、
　　　自分たちの前に立ちふさがって……。

　「……リザリアは！神竜の鏡は、いったい……？」

　バラバラだった記憶のピースが、一挙につながり、最後の記憶が、姿を現す。

　――そうだ、思い出した。

　鏡の力を狙い、新しい世界の神になる、そんな野望を抱いた三人組がいた。
　彼らと若者は、鏡のかけらをめぐり、幾度となく戦い、そのたび勝利していたが、最後の最後に……負けてしまった。

　――そのために、竜の呪いは解けず……自分は、再びかえるに……！

　「……思い出したか？」

　アルターの質問に、若者は固い動きで頷いた。

　「……でも、何故、呪いは……」

　そう呟き、再び人の形をした自分の体をまじまじと見つめる。
　賢者に告げられた期限、かえるになる呪いを抑えていられる魔法の限界は、一年。
　そして鏡をめぐる、最後の戦いに敗北したあの日が、刻限、人でいられる最後の日のはずだった。
　……それゆえに、敗北したその刹那、すべてが終わった。

　――これで、自分は一生かえるのままだ。

　そう思い、どこへともなく手を伸ばした……ことまでは、覚えている。

　五本の指、毛も水かきもない、完全な人の手となった自分の手を若者が見ていると、マーロが一歩進み出た。

　「おれ……おれたちも、どうしてもあんたのことあきらめきれなかった。
　　だから、みんなでいろいろ調べて、呪いを封じる魔法を習得して……
　　でも……」

　そこまで言って、言葉を切る。

　「……この魔法もやっぱり、一時的にしか効かない……？」

　若者が呟くと、マーロは重々しく頷き、若者の視線も、自然に下がる。
　沈み込んだ空気の中、今度はアルターが進み出た。

　「……でもよ！とにかく人間に戻れたし、オレたちの記憶も残ってる！
　　だから、魔法が解けるその前にリザリアの奴らを倒せば、
　　今度こそ呪いも完全に解けるさ！」

　そう、力強く宣言する。
　その言葉に、若者は顔を上げた。

　「……リザリア？
　　そうだ、リザリアは……
　　それにこの暗い空、いったい今、何がどうなって……！」

　若者の質問に、一瞬で二人の目が険しく、口が重くなる。
　しかし、若者が強く問いただすと、ぽつりぽつり、その後のことについて語り始めた。

　……あの戦いの時、敗北し、倒れた自分たちを、チビドラが運んで……救った、こと。
　そして、完成した神竜の鏡を、リザリアが手に入れてしまったことを。

　「……暗いだろう？この空。まだ昼だってのに。
　　これも、あの鏡の力なんだとよ」

　そう言って、アルターは空を仰ぐ。
　自分たちを包む空。
　改めて見上げるその空は、暗く、雲が恐ろしい速さで通り過ぎていく。
　……暗黒の時代、そんな言葉が頭をよぎった。

　「その力を使って、無限に魔物を生み出して、
　　街を、国を、次々と攻め落として……
　　今はあのフロスティの城で、魔物に守られて神様気どりだ。
　　……ったく、調子に乗りやがって」

　マーロの言葉が切れると同時に、重い風が、森を揺らして通り過ぎる。
　風に乗り、よどんだ咆哮が聞こえた気がした。

　「魔物の強さと数に、もうあきらめちまってるヤツも少なくねえ。
　　このまま逆らわずに生き延びればそれでいい、なんて抜かすヤツもいる。
　　……でもよ、それでいいわけねぇだろ！？」

　アルターは荒い声で、大きな拳を握りしめる。
　その荒さは力強く、よどみ、にごった空間を揺らす。

　「こうなった責任は、あのとき、
　　あの男を止められなかったおれたちにもある。
　　……それに、あんたの呪いも、あの男を打ち倒さないかぎり、
　　完全に解けることはない。
　　だから……行こう、おれたちと、もう一回。
　　あんたの力が必要なんだ！」

　そう言って、二人は手を伸ばし、竜の幼生は若者を見上げる。
　……若者は目を閉じ、胸の中心で、自身のこぶしを握り締めた。

　……どくどくと、体中に流れる血を感じる。
　二人の言葉に、はっきり反応する、人の心臓が、ここにある。
　もう、戻ってこないと思っていた、敗北の刹那に、手放してしまった、この、感覚。
　若者は、奥歯を噛みしめると、一歩を踏み出した。

　「……ありがとう、助けてくれて」

　そして、二人の手を強くつかむ。

　「……もう絶対、何が何でも、負けない。
　　行こう。
　　……行って、勝とう！」

　若者の言葉と瞳が、二人の顔に明るさを宿す。
　一拍おいて、白い竜が若者の肩に飛びのった。

　……肩と手に、確かに感じるあたたかさ。
　若者は、そのぬくもりをかみしめる。

　――……そう、これが、手放してしまったもの。
　あの時、なくしたもの。

　……はなさない。
　この手にしたからには、二度と、はなさない……絶対に！

　そう、誓い、握った手に力を込める。

　泉の上を、ざわめく風が通り過ぎていく。
　空を取り戻す戦いが、今、始まった。

―――to be continued "OMAKE GAME"

（以下コメントにつき薄字・見たい方はマウスでドラッグしてください。）

　……ちょっと反則っぽいですが、「白竜ルートでリザリアに敗北した場合のバッドエンド後、おまけゲームに至るまで」をコンセプトとした話です。 　(ちなみにおまけゲームは赤青白ルートの金色の絵本３つと、仲間の絵本を全部集めると、いつもの宿屋からメニュー→特殊機能でプレイできます)
　キャラ的にはもっと出したりしてもいいかな、とは思ったものの、やはり初期メンバーのアルターとマーロが順当かな、と思いこの二人、それから男女主人公どちらでもいけるように、との流れのため、結局三人称？は「若者」になりました。……本当は主人公の年齢もプレイヤーの自由なので、選択肢としてせばめたくはなかったのですが、苦肉の策と言うことで。
　お付き合い、ありがとうございました。