はじまりのうた

　それは冒険者の集まる、コロナの街でのお話。

　青い空の下、薄桃色の花が広がる、そんな季節より、ほんの少しだけ前の物語…。

＜酒場＞

アルター：
おーい、マスター！
今日はなにか依頼はないのか？

マスター：
う〜ん、今はこれといった依頼はないな。
悪いが、また来てくれよ。

アルター：
またかよ！
今日はせっかく剣を磨いてきたんだぜ？
それなのによ……

マスター：
しかたないだろう、
それだけこの街が平和ってことなんだから。

アルター：
そりゃ平和なのはいいけどよ。
けどなあ……。

マスター：
……まあ、せっかく磨いた武器を使いたい、
その気持ちはわかるが、こればっかりはな。

……ほらほら、いつまでもそんなところで
突っ立ってるなよ。
客はおまえだけじゃないんだぞ。

それとも、空いた時間、
掃除でもしてくれるのか？

アルター：
あー、わかったよ。
どけばいいんだろ、どけば。

あーあ、なんかこう……
なんかねぇのかな。

（マーロ登場）

マーロ：
マスター、
なにか依頼はないか？

思ったより早く課題が終わって、
時間が空いてるんだ。

アルター：
あー、マーロ、残念だったな。
この街は平和すぎて、何の依頼もないってよ。

マスター：
いや、あるぞ。
これなんかどうだ？

アルター：
えーっ！？なんだよ！
たった今、オレに依頼はないって
言ったばかりじゃないか！

マスター、オレに恨みでもあんのか！？

マスター：
いや、そういうわけじゃないが……

マーロ：
…あーもう、うるさいやつだな。
そんなに気になるなら見ろよ、ほら。

アルター：
えーと…

『求む！魔法使い
　○依頼内容＝炎で氷を溶かしてください
　○必須技能＝炎の矢
　○コメント＝凍りついたままの船の氷を溶かしてくれる方を募集しています。炎の矢の使える魔道士の方、是非ご参加ください』？

マスター：
…な？おまえさんには無理だろう。
だからないって言ったんだよ。

マーロ：
そういうこと。
わかったか？

アルター：
あーあ…、
つまんねーの。

もっとこう…ねーのかな。
とびっきりのこと。

マスター：
とびっきりってなんだよ。

このコロナに魔物でも
来ればいいっていうのか？
勘弁してくれよ。

アルター：
そーじゃねーけどさー。

…ああ、そうだ。
とびっきりのヤツがこのコロナに
来ればいいんだ。

マーロ：
…だから、とびっきりってなんなんだよ。
具体的にさ。

アルター：
とびっきりは…とびっきりだろ。

マーロ：
…話にならないな。

マスター、サンキュー。
ここ、行ってくるよ。

マスター：
ああ、行ってらっしゃい。
気をつけてな。

（マーロ、去る）

アルター：
おい、マーロ！

…なんだよマーロのヤツ、
あの言い草は！

マスター：
今のはおまえが悪いだろ。
で、結局とびっきりってなんなんだ？

アルター：
だ、だから……

実は王家の血を引いてるとか、
本当は人間じゃないとか……

とにかくすごい運命を持ってるような……

あー、もう、とびっきりは
とびっきりなんだよ！

＜盗賊ギルド＞

ルビィ：
にゃーん。

ルー：
うん、大丈夫だよルビィ。
もうちょっとだから。

…うん、手ごたえあり！
よーし、もう少しで開けられるよ！

女：
あの…ずいぶん時間かかってるみたいですけど…
やっぱり、無理ですか？

壊れた鍵のかかった宝箱を
開ける、なんて…。

アッシュ：
あー、大丈夫大丈夫。
任せときな、オレたちは解錠のプロなんだから。

それに、大事な親父さんの形見なんだろ？

女：
…はい、お願いします。

アッシュ：
それにしても、何が入ってるんだろうな。
親父さん、
ずいぶん、大事にしてたんだって？

女：
…ええ。
あの…一抱えもありそうな大きさでしょう？
家のスミにおいても、つい目がいっちゃって。

それを父は、毎晩のように眺めて、なでていて…
だから子供心にも、よっぽど大切なものが
入ってるんだなって、気になって……。

父が亡くなって、いざ開けることになったら、
鍵があんな風に壊れてるなんて、
思いもしませんでした。

…盗賊ギルドの皆さんにお願いできて、
本当によかったです。

ルー：
よし！開いた！

来てください、
鍵、開きましたよ！

女：
あ、はい！
ありがとうございます！

アッシュ：
どれどれ、何が入ってるんだ？

ルー：
どうぞ、開けてみてください！

女：
は、はい。
それでは……

ルー：
………。

女：
これ……。

アッシュ：
…ずいぶんな、量の酒だな。
それも結構いい酒だぜ。

親父さん、よっぽど酒が好きだったんだな。

女：
………。

ルー：
ん？どうかしたんですか？

女：
い、いえ……。
父は、私の前でお酒をのんだことがなくて…

だから私、てっきり父は酒が嫌いなんだと
思っていたので、意外で……。

アッシュ：
……確かに、よく見てみると妙だな。
この酒、どれも封が開いてないし、
のまれた形跡がないぜ。

ルー：
あれ？
間に何か挟まってるみたいだけど……

女：
え、どこですか？

ルー：
ほら、ここに……
なにかな、これ？……絵？

女：
見せてもらっていいですか？

……！
これは………

…………！

ルー：
ど、どうしたんですか？

女：
………
……す、すみません。

この絵は……昔の……生まれた頃に
描いてもらった、私の、似顔絵で……

それで…裏に書いてある父の字を見たら……
父を……思い出して……

アッシュ：
……失礼。

――『この子のために』
か。

ルー：
この子…あなたの、ために…？

女：
……今まで、忘れてましたけど……
人から、聞いたこと…ありました。

昔、父は大酒のみで、
とても酒グセが悪かったって。

でもある時、
きっぱりお酒をやめたんだって。

それがどうしてかって聞いても、
笑って教えてもらえなかったけど……

私の、ためだったんですね……。

……父さん……
そんなこと、一言も言わなかった……

言わない…ままで……！

アッシュ：
…いいのかい、この酒、全部もらっても。
これだけでも、結構な金になるぜ？

女：
はい。私には、お酒の価値って
よくわからないし……

……それに、私にはこの壊れた鍵と絵があれば、
もう、充分ですから。
お礼になるのなら、是非もらってください。

アッシュ：
…そうか。
じゃ、ありがたくいただくよ。

女：
はい、皆さん、
今日は本当にありがとうございました！

（女・去る）

アッシュ：
いいもん見たな。

ルー：
うん。
……父さん、か。

ルビィ：
にゃーん…。

アッシュ：
…なあ、ルーちゃん。
よかったらこの酒持ってマノ……

ルー：
！
あー、今日はちょっと張り切って
疲れちゃったな！

ルビィ、今日はもう帰ろっか！

ルビィ：
にゃー…。

ルー：
今日は家に帰ったら
おいしいもの食べようね！
それじゃ、アッシュ！またね！

（ルー、去る）

盗賊：
…手強いな。

アッシュ：
ああ、あの親子はホント、
二人そろって強情っぱりだからなぁ…。

盗賊：
間に入る俺たちの身にも
なってほしいよな。

アッシュ：
そうだな。
なまじどっちの事情も知ってるだけに
動きが取りづらいんだよな。

……誰かいりゃあいいんだけどな。

ルーが心を開くような相手で、
なおかつ二人の事情にくわしくなくて、
簡単に仲裁に入れる、そんな誰かが……。

盗賊：
ああ、いねーのかなぁ。
そんな、誰かさんが。

＜神殿＞

ティアヌ：
それでは本日も、
皆に神の祝福がありますように……。

＜神殿・廊下＞

シェリク：
……ティアヌ様。

ティアヌ：
あらシェリク、何か用ですか？

シェリク：
…ティアヌ様、
最近少しお疲れなのではないですか？

ティアヌ：
…いいえ。
そんなことはないですよ。

シェリク：
けれど顔色が冴えないように見えて、
私も…神官たちも心配しています。

たまには、お休みをとっては
いかがでしょうか。

その間、神殿の仕事は
残った我々で何とかしますから。

ティアヌ：
…ありがとう、シェリク。

でも、大丈夫。
私は疲れてなどいませんから。

シェリク：
しかし、ティアヌ様…

ティアヌ：
それに、たとえこの身がどうなろうと、
他者のために奉仕するのが、
神の示す道なのだと思います。

心配してくれてありがとう、シェリク。
けれど、もうそろそろ自分の仕事に戻りなさい。

あなたの助けを待っている人が、
ここにはたくさんいるのですから。

(ティアヌ・去る)

シェリク：
ティアヌ様……。

クリス：
…シェリクさん、
やはり、ダメでしたか？

シェリク：
…クリスさん。

ええ、ティアヌ様は
行ってしまわれました。

クリス：
そうですか…。
ティアヌ様も、あれでなかなか
強情ですからね。

シェリク：
…確かに、今の神殿は人手不足で、
一日休むのも惜しいという、

ティアヌ様の献身のお心は、
すばらしいものだと思うのですが…。

クリス：
ええ、でも、今のままでは、
ティアヌ様の身が心配で…。

ティアヌ様が倒れてしまっては、
それこそ神殿も混乱してしまうし…。

せめてあと二人…いや、一人、誰かいれば、
もっと余裕も……

シェリク：
…いいえ、クリスさん。
人手不足を嘆いてはいけません。

私たちが神の道を体現していれば、
きっと神はその手を差し伸べてくれるはずです。

今はそれより、
ティアヌ様の負担を少しでも減らすことを
考えましょう。

クリス：
…そう、ですね。
では僕は、急いで今日の仕事にとりかかります。

そして空いた時間で、
ティアヌ様のお手伝いができないか、
考えてみます。

シェリク：
ええ、お願いします。

(クリス・去る)

シェリク：
(…そう、人手不足を嘆いてはいけない。
　けれど…誰か、せめてもう一人、
　手を貸してくれる誰かがいれば、

　そんな誰かがいれば、
　ティアヌ様も、きっと……)

…いけませんね。こんなことを考えては。

神は越えられぬ困難を
人に課したりはしない。

…どうしようもない時でも、
私が神の道を正しく歩んでいれば、
きっと、何か光明が見えるはずです。

…さあ！
今日も一日、私のすべきことに
全力を尽くしましょう！

＜鍛冶屋＞

ロッド：
…ふんふんふーん。

助手：
…ずいぶんとごきげんですね、ロッドさん。
何かいいことでも
あったんですか？

ロッド：
いいや、ごきげんなのはオレじゃないぜ。

助手：
…はい？

ロッド：
嬉しそうなのは、こいつさ。

助手：
……こいつって…ロディタイトです？

ロッド：
そうさ。
おまえにもわからないか？
今日のこいつは、ヤケに機嫌がいい。

……きっと何か、おもしろいことが起こるぜ。

助手：
はあ……そういう、もんなんですか。

ロッド：
そういうもんさ。
こいつがヤケに嬉しそうな時ってのは、
何かおもしろいことが起こる前兆なんだ。

……昔、生きのいい女に会った時も、
すっげえ竜がバレンシアの方に現れたときも、
冒険者が思わぬ武器を持ち込んで来たときも、

……店の前で弟子入りしたいっておかしなヤツが
三日三晩粘った時も、
こいつはこんなふうに嬉しそうだったぜ。

助手：
………。

ロッド：
だからきっと、
今回も
おもしろいことが起こるぜ。

そうだな…今度は、おもしろいヤツが
来るのかもな。

こいつでできた武器を、
万全に生かしてくれる……そんなヤツが。

助手：
はぁ…そうなるといいですね。

ロッド：
そうなるといい、じゃねぇ。
そうなるんだよ。

おまえもいいかげん、
ロディタイトの気持ちがわかるようになれよ！
がっはっは！

助手：
……はあ……努力、します。

＜研究所＞

デューイ：
失礼します。
レラ＝Ｌ＝リデルは
こちらにいらっしゃいますでしょうか。

レラ：
あら、デューイじゃない。
なにしに来たの、こんな時間に。
騎士の仕事はいいの？

デューイ：
ええ、今日は早番でしたし、
そのついでに先日姉さんが捜していた本を
見つけたので、届けに来たんです。

どうぞ。

レラ：
あら、悪いわね。

デューイ：
いいえ、これぐらい当然です。
……それでは、失礼しますね。
お邪魔しました。

レラ：
……
……待ちなさい。

デューイ：
なんでしょう？

レラ：
本当に、それだけ？

デューイ：
……ええ。
それだけですが。

レラ：
……そう。
じゃ、座ったら？

デューイ：
はい？

レラ：
早番なんでしょ。
お茶ぐらい飲んでいきなさいよ。

……力の出るお茶、入れてあげるから。

デューイ：
……そう、ですね。
それでは、お言葉に甘えます。

レラ：
………はい、どうぞ。

デューイ：
……では、失礼して。

レラ：
………。

デューイ：
……姉さん。

レラ：
なに？

デューイ：
……研究は、進んでるんですか？

レラ：
……なかなか、ね。

今は神竜に関係あるはずの
遺跡を調べてるんだけど……

まとまった休みも取れないし、
遺跡を住みかにしてる魔物も多いし、で
あまり進んではいないわ。

せめて誰か……
露払いをしてくれる人材がいれば、
もっと進むと思うんだけど。

デューイ：
露払い、ですか……

……もし姉さんさえよければ、
私が手伝いましょうか？

レラ：
……いいわよ、別に。

デューイ：
しかし……

レラ：
あんたには、あんたの仕事があるでしょ。
騎士ったって暇じゃないんだから。

私のことまで首をつっこむ暇があったら、
自分の責任を
最後まで果たすことを考えなさいよ。

デューイ：
責任……。

レラ：
そうよ。
生意気言うのは、それからにしなさいな。

……いる？

デューイ：
はい？

レラ：
おかわり。
ティーカップ、もう空でしょう。

……まだ元気が出ないようなら、
もう一杯入れるけど？

デューイ：
……いいえ。大丈夫です。
ありがとう、姉さん。

＜研究所・外＞

デューイ：
（……姉さんに、心配をかけてしまったな）

（最近、やけにあの人のことを夢に見る)

（……騎士としての責任……正義。
　私にそれを教えてくれたあの人は……
　今、どうしているのでしょう。）

（……ただの、私の杞憂ならば
　いいのですが……）

＜森＞

ユーン：
ラケル、どうしたの？

ラケル：
……ユーン。

ユーン：
珍しいのね、
こんな時期にたきぎ拾いなんて。
何かあったの？

ラケル：
別に……大したことじゃないよ。

今年は思ったより寒さが続いて、
たきぎが足りなくなったから
集めに来たんだ。

ユーン：
ふーん……手伝おうか？

ラケル：
いいよ、別に。
ユーンも用があって来たんだろ？

ユーン：
わたしの用事はもう終わったもの。
今帰っても後で帰っても同じよ。
……ほら、貸して。

ラケル：
……いいのに。

ユーン：
……それにしても、
今年は何かあったの？

いつも寒さが続いてもいいように、
考えて集めるものじゃ
なかった？

ラケル：
……しかたないよ。
だって今年は、思ったより
人間が森に来たんだ。

ユーン：
……まあ、
それじゃ、しかたないわね。

ラケル：
そう、おかげで予定が狂っちゃったよ。
まったく、人間ってどうして
ああも図々しいんだろうね。

ユーン：
本当よね。
勝手に森に来て、
実や木を必要以上に持っていって。

もう、いやになっちゃうわ。木が育つのに、
どれだけの時間がかかってると
思ってるのかしら。

ラケル：
そうだよね。
森の動物たちだって
困ってるよ。

最近なんて勝手に
森に住み着こうとしてる人間まで
いるみたいだし……。

人間には町があるじゃないか。
こっちまで荒らさないで欲しいよ。

ユーン：
まったくだわ。
森をなんだと思ってるのかしら。

ラケル：
本当だよ、自分勝手で傲慢で、
なに考えてるのかわからなくて……。

ユーン：
おまけに強欲で…どうしてフェーン様は
人間と仲良くしろなんて
言うのかしら。

ラケル：
そうだよ、どうして、
母さんは父さんと……！

ユーン：
……ラケル。

ラケル：
………。

ユーン：
………。

ラケル：
……ちょっと、
向こう見てくる。

ユーン：
………ラケル……。

（ラケル・去る）

ユーン：
（…ラケル……つらいのね）

（ラケルの父さんも人間で……
　サノアさんは、その人間を愛して、
　信じて、結婚して……）

（あの人が姿を隠した今でも、
　サノアさんは、決してラケルの父さんを、
　悪く言わない……）

（それだけ、深く信じてるのね。
　本当はどうなのかは
　わからないけど……）

（それでも、サノアさんにとっては、
　信じることのできる人間なんだ……）

（……本当は、わたしだって、
　信じてみたい。）

（悪い人じゃない、信じられる、
　そう思える人間に、出会いたい
　…きっと、ラケルだって）

（ラケルだって、同じ思いを
　している気がするのに……）

会いたい、
……信じられる、誰かに。

＜広場＞

カリン：
……？

コロナのババ：
どうしたんだい、カリン。
手が止まっているよ。
誰か、いたのかい？

カリン：
まあ、おばあさま、
もうしわけありません。

誰かに呼ばれた
気がしたんですけど……
気のせいだったみたいです。

コロナのババ：
………。
そうかい。

カリン：
……おばあさま。

コロナのババ：
なんだい。

カリン：
……私、争い事は嫌いです。

コロナのババ：
知ってるよ。
それが、どうかしたのかい。

カリン：
でも……、どうしても
戦わなければならない時が
あるとしたら……。

私は、
どうすればいいのでしょう？

コロナのババ：
………。

カリン：
おばあさま……。

コロナのババ：
……さあ、ね。
自分で考えな。

カリン：
………。

コロナのババ：
……でもね、カリン。

カリン：
はい。

コロナのババ：
好む好まないに関わらず、
人は、いつか何かと
戦わなきゃならないもんだ。

そのいつか、がいつ来るのかは
誰にもわかりゃしない。

そういう時のために、
せいぜい心を決めておくことだね。

カリン：
おばあさま……。

コロナのババ：
……あー、寒い寒い。
年をとると、夕方の寒さが
身にこたえるね。

さっさと看板片付けて
テントに入りな、カリン。

カリン：
……はい。

（コロナのババ・去る）

カリン：
（……戦わなければならない、
　いつか……。）

（もし、本当にその時が来たら……
　私は、戦えるのでしょうか……？）

（……わからない。）

（でも、もし、もし本当に
　そんなことになるのなら……）

（誰か、信頼できる誰かが、
　そばにいてくれれば
　いいのですが……）

＜街道の宿屋＞

レティル：
……助かったわ、
泊めてもらえることになって。

どこもいっぱいで、
今日は野宿かと思っていたから。

宿の女主人：
しかたありませんよ。
今週は三年に一度の星祭ですから。

レティル：
星祭？

宿の女主人：
ええ、今週はこの街で、
特別たくさんの流れ星が
見えるんです。

しかも今日は、この一週間の中でも、
一番多く星が流れる夜ですから、
どこの宿も満員なんです。

うちも、普段は宿はやってないんですけど、
この時期だけ特別に
お客様を泊めてるんですよ。

レティル：
へえ。

宿の女主人：
よろしかったら、
お客様も
お祭りに参加してはいかがですか？

丘の上の会場まで行けば、
ここよりもっと
たくさんの星が見られますよ。

願い事もし放題。
どうです？

レティル：
……ありがとう、
でも、いいわ。

あたしは、
泊めてもらえれば
それで充分だもの。

宿の女主人：
そうですか？
まあ、人も多いですし、
窓からでも星は見えますものね。

では、ごゆっくり。

あ、明日の朝になったら、
一階までいらっしゃってくださいね。
朝食をお出ししますので。

レティル：
ええ、ありがとう。

＜宿の一室＞

レティル：
……いい部屋ね。
窓は確かに小さいけど、
あたしは星を見に来たわけじゃないし。

……流れた。
なるほど、星祭って言うわけだわ。

……星に願いを、か。

レティル：
（……昔の……子供の頃のあたしなら、
　きっと喜んでお祭りに参加していたわね。
　願い事を叶えるんだ、って)

（でも、今のあたしは知ってる。
　星に願いをかけたところで、
　決して叶いっこない。)

（……風邪を引くまで窓辺にいたって、
　どんなに願ったって、
　帰って来なかったもの……彼は)

（ノックの音）

宿の女主人：
すいません、お客様。
お休みですか？

レティル：
……いいえ、起きているわ。
なにかしら。

宿の女主人：
忘れてました、これ。

レティル：
？
これは？

宿の女主人：
星祭限定の、サービスなんです。
紅茶と、コンペイトウ。
よろしかったらですけど……どうですか？

レティル：
……ありがとう、いただくわ。

宿の女主人：
よかった。

あ、これ、ここで取れたお茶で……
会いたい人の姿を思いながら飲むと、
その人に、また会えるって伝説があるんですよ。

レティル：
……へえ、本当に？

宿の女主人：
……そう、言うように
町長に言われてるんです。
……内緒ですよ？

レティル：
ふふ、わかったわ。

宿の女主人：
まあ、私がこんなこと言うのも
なんですけど……

願うだけならただですし、
できれば会いたい…そんな人を
思ってみるのはどうですか？

それなら叶わなくても、
損はしないし、叶うと
なんだか得した気持ちになりますし。

レティル：
……そうね、ありがとう。

宿の女主人：
それじゃ、お疲れのところ、
お邪魔してすみません。
ごゆっくりお休みください。

（女主人・去る）

レティル：
……不思議ね。
さっきまで願い事なんて、
って思ってたのに……

ちょっと、そうしてもいいかな、
なんて思ってるわ。
……この、コンペイトウのせいかしら。

……とっくの昔に
わかっているのに、ね。

ただ、願いが叶うのを
待ってるだけじゃ、
泣いてるだけじゃ、何も変わらない。

自分から動かなきゃ、
誰も助けられない……って。

……あっ。

レティル：
（また、流れた……）

（そうね、こんな特別な夜くらい…
　何か、願いをかけるのも、
　悪くないかもしれないわ）

（本当に叶えたい願いは、
　本当に会いたい人は、

　自分の手で見つけ出す、
　そう決めているけれど……）

（ほんの少し、そのきっかけを
　願うのも……いいかもしれないわね）

レティル：
そうね、それなら……。

願わくば……
あの、名もなき英雄。

レオンと共に
旅に出た、あの人に……
また、出会うことができますように……。

＜夜の広場＞

ミーユ：
……と、ここまでです。
どうでした？

リュッタ：
うん、いい歌だね！
おいらすごく気にいったよ！

ミーユ：
そうですか、それはよかった。

リュッタ：
でも、なんだか
いつものミーユの歌とは
ちょっとちがったね。

なにかあったの？

ミーユ：
……ふふ、
やっぱりリュッタには
かないませんね。

リュッタ：
なになに？
なにがあったんだい？

ミーユ：
それほど、大したことでは
ないのですが……。

夢を、見たんです。

リュッタ：
ゆめ？

ミーユ：
ええ。

私がいつものように
歌っていると、
誰かが近づいてくるんです。

それで、その人を見ると、
その人の後ろに、
たくさんの物語が見えたんです。

私が声をかけようとすると、
その人はふっと消えて……
あたりには、光だけが残る。

それだけの夢なんですが、
なぜかとても気になって。

だから、歌にして
残しておこうと思ったんですよ。

リュッタ：
それが、さっきの歌？

ミーユ：
ええ。

リュッタ：
へー、それでそれで？
その人ってどんな人だったの？

ミーユ：
さあ……。
それが、何も覚えていないんです。
確かに見たとは思ったんですが……。

リュッタ：
へえー……ふしぎだね。

ミーユ：
まあ、夢ですからね。

リュッタ：
そっかー……。
でも、ちょっと残念だなー。

ミーユ：
……どうしてです？

リュッタ：
だって、おいらも
その人に会ってみたいんだもん。

だから今夜、
夢の中でさがそうと思ったのに、

どんな人かわからないんじゃ、
さがしようがないだろ？

ミーユ：
ふふ、なるほど。
リュッタらしいですね。

リュッタ：
だから残念。
あーあ、おいらも会ってみたかったなー。

ミーユ：
……大丈夫ですよ。

リュッタ：
ん？
どうしてだい？

ミーユ：
きっと、リュッタも
すぐに会えますよ。

リュッタ：
えー？
なんでなんで？

ミーユ：
……そんな、気がしますから。

リュッタ：
ほんと？

ミーユ：
ええ、本当です。

リュッタ：
そっかー。
へへ、楽しみだなー。

ミーユ：
では、楽しみついでに、
ここでもう一曲、
聞いていただけますか？

リュッタ：
うん、いいよ！
なんて曲だい？

ミーユ：
この曲は……そうですね。
はじまりのうた、です。

　それは、冒険者の集まる、コロナの街でのお話。

　不思議な瞳の色をした旅人が、コロナの街を訪れる、ほんの少し前の物語…。

（以下コメントにつき薄字。読みたい方はマウスでドラッグしてください。）

…その名の通り、プロローグ、OPデモのイメージで。

　実際のゲーム中のキャラ依頼なんかをイメージして書いたので、どうしてもキャラによって多少差があるかも。一応イメージ設定は主人公が訪れる前の３月末、ですが、果たしてゲーム中のイベントと時系列が合っているのかちょっと怪しいです。

　多少は一人称その他チェックしてますが、基本は管理人の勝手なイメージ先行ですので、メインキャラおよびマスターなども、キャラ設定およびイメージと違ったらすみません。

　シナリオ形式はキャラの掛け合いが書きやすくて、ついつい書きすぎてしまいました。長いものの、少しでも楽しんでいただければ光栄です。