白い夜のうた
それは、コロナの酒場に語り継がれる伝説の歌。
ある年の冬に起こった、決して忘れえぬ物語……。
＜酒場＞
マーロ：
なあ、マスター。
今日は、あいつ……
アルター：
おっマーロ、
いいところに来たな！
よし、じゃあこれ頼むぜ！
マーロ：
……
なんだよ、これは。
アルター：
折り紙だよ、見てわかんねえか？
マーロ：
わかりすぎるから聞いてるんだろ。
大体なんなんだよ、
この店の妙な飾りつけは。
アルター：
そうか？
ツリーに星に、紙と木の輪っか……
クリスマスの飾りってこうじゃねえか？
マーロ：
だからそれがおかしいだろ！？
今日は28日！３日後には大みそか、
その次は新年だぞ？
なんで今さらクリスマスやってんだよ！
アルター：
なんだ、そのことか。
それがな……
リュッタ：
ねー、アルター！
ここの飾り、おいらじゃ手がとどかないよー！
アルター：
おう、まかせろ！
じゃ、それ頼むぜマーロ！
マーロ：
お、おい！
……頼むって……どうすんだよ、これ……。
リュッタ：
あ、マーロだ！
こんにちは！
なになに？
手伝ってくれるのかい？
マーロ：
……いや、だから……。
リュッタ：
じゃあ、その紙を細長く切っておくれ！
そしたらおいらがそれで、
紙のわっかをつくるからさ！
よかったー、マーロが手伝ってくれて！
おいらとアルターが紙を切ると、
なんかヘンになっちゃうんだ！
マーロはそういうの得意そうだもんね！
ほんとによかった！
マーロ：
…………。
・
・
・
マスター：
ただいまー、帰ったぞ。
どうだ、進んでるか？
リュッタ：
あ！マスター！
うん、マーロも手伝ってくれたから、
だいぶできたよ！
マスター：
お、そうか、悪いな、マーロ。
マーロ：
マスター！
なあ、なんなんだよこれは！
今日は28日だろ？
なんでこんなことやってんだ？
マスター：
なんだ、聞いてないのか？
マーロ：
聞いてるも何も、
おれ、今日はあいつに会いに来ただけなんだぜ？
なのになんでこんなこと……。
マスター：
あー……まあ、そう言うな。
元はと言えば、
これもあいつのためなんだ。
マーロ：
……え？
＜研究所＞
レラ：
ただいま戻りました。
オーウェン：
おお、レラ。戻ったな。
きみに渡したいものがあるんだ。
……ほら。
レラ：
……なんですか、これは。
オーウェン：
招待状だ。
クリスマスパーティの。
レラ：
……オーウェン様、
日付の認識ができなくなるほど
脳の機能が低下するには、
まだわずかばかり時間があると思いますが？
オーウェン：
……わずかばかりとは何だ。
失礼なやつだ。
そうではない、
これは、いつも研究所に来るあの子からの
預かりものだ。
レラ：
……なるほど？
しかし、クリスマスが
３日前に終わったはず、という認識は
変わりませんが。
オーウェン：
ああ、それなのだがな。
私もそう言って、話を聞いたのだよ。
そうしたらあの子は、
クリスマスと言うお祭を
知らなかった、と言うんだ。
レラ：
……知らなかった？
クリスマスを？
オーウェン：
ああ。
それが呪いによる記憶喪失のせいなのか、
元々そうだったのかは
本人にもわからないそうだが……
だから、仲間から
クリスマスと言う行事があると聞き、
ずっと楽しみにしてたんだそうだ。
レラ：
楽しみに……
……でも、確か……。
オーウェン：
そう、きみも覚えているだろう。
あの事件だよ。
酒場のマスターのたっての頼みで、
マスターの友人の濡れ衣を晴らすための
冒険に出た、あの、な。
あの子の活躍のおかげで、
その友人は釈放され、
無事、事件は解決したそうなのだが……
楽しみにしていたクリスマスの当日は、
その間にすぎてしまったそうだ。
それで沈んでいたのだろうな、
事情を知った酒場のアルターくんやリュッタくんが
今からでもパーティをやろう、と言いはじめ、
話を聞いたマスターも、店を貸してくれる、
ということになったらしい。
……それで、ここまで
招待状を届けに来た、と言うわけだ。
レラ：
……なるほど、わかりました。
……しかし、そのパーティの日程が、
明日の夜ですか。
ずいぶん急な話ですね。
オーウェン：
まあ、酒場のマスターも年末年始の稼ぎ時に
店を貸し切りにするわけにはいかんのだろう。
かと言って１月では
クリスマスパーティとも言いがたいしな。
……どうだろう、レラ、行ってあげては。
招待状をたくされ、わけまで聞いたのに、
きみが欠席となると、私の顔も立たんのだよ。
レラ：
……オーウェン様の顔と私の出席には、
なんら関連性は認められませんが。
オーウェン：
まあ、そう言うな。
……ああ、そう言えば、招待状を渡された時、
こうも言っておったぞ。
本当はもっとたくさんの人を呼びたかったが、
マスターにそれほど多くは無理だと言われたので、
特別に親しい人間だけに、
招待状を出している……と。
レラ：
…………。
オーウェン：
……どうだね、レラ。
……おい！どこへ行く？
レラ：
……たとえ、小規模な内輪のパーティとは言え、
出席するとなれば、
それなりに準備が必要ですので。
本日はこれで失礼させていただきます。
それでは。
オーウェン：
…………。
……あれは……出席する、と言うことだな。
……まったく、
素直じゃないやつだ……。
＜広場＞
レティル：
……さて、どうしたものかしら。
カリン：
まあ、レティルさん？
レティル：
カリン。
偶然ね、こんなところで会うなんて。
カリン：
ええ、めずらしいですね、
レティルさんが広場にいらっしゃるなんて。
何か、こちらに用があったのですか？
レティル：
ええ、まあね。
ちょっとパーティに招待されたものだから。
招待された以上、
手ぶらってわけにもいかないし。
それでこうして、
何かいいものがないかなって見にきたの。
カリン：
あら、レティルさんもですか？
実は、私もなんです。
でも、いざとなるとなかなか
決められなくて……。
ルー：
あ、カリン、レティル！
どうしたの、二人そろって？
レティル：
ルー。
カリン：
ルーさん。
ルー：
……もしかして、二人とも、
『クリスマス』？
レティル：
あら、それじゃ、ルーも？
ルー：
うん。
あたしも招待されたからさ、
なんか持ってこうと思って。
ふたりも？
カリン：
ええ。
でも、私、こういう経験があまりないので、
なにがいいのか、迷ってしまって。
レティル：
あたしもよ。
難しいわよね、こういうときのプレゼントって。
ルー：
……ねえ、じゃあさ、
みんなでケーキ、作らない？
カリン：
ケーキ、ですか？
ルー：
うん、やっぱりクリスマスパーティなんだしさ、
ケーキがないと始まらないでしょ？
三人で作れば、材料費も手間も
３分の１になるし！
レティル：
それはそうかもしれないけど……。
でも、甘いものって好き嫌いがあるんじゃない？
みんなが来る場で、
あんまり好みがわかれるものって言うのは……。
ルー：
うん、だから、甘さ控えめにした、
軽い感じのシフォンケーキなんかどうかな。
で、他にトッピングとして、
ホイップクリームとかチョコソースとか、
ジャムとか持ってくの。
甘いの苦手な人はそのまま、
甘いのが好きな人はトッピングしたら、
ちょうどいいんじゃないかなって。
仮に甘いのが
どうしても苦手だって人がいてもさ、
仲間がみんな集まったら、10人以上になるから
あまらなくてもすみそうだし、
リュッタがいれば頼まなくても食べてくれるって！
どう？よくない？
カリン：
たしかに……いいかもしれませんね。
ルー：
よし！決まり！
じゃ、あたしは先に
スラムの酒場でボールとか用意してるから、
カリンとレティルは材料買って来てくれる？
カリンはケーキの、
レティルはトッピングの材料ね！
あとで材料費はまとめてワリカンにするから、
ちゃんと覚えておいてね！
それじゃ！
待ってるからねー！
カリン：
……行って、しまいましたね。
レティル：
……ええ、決まっちゃった……みたいね。
それじゃカリン、あたし、
トッピングの材料買ってくるわ。
また後でね。
カリン：
……ええ、それではレティルさん。
また、スラムの酒場で。
＜スラムの酒場＞
ルー：
よし、これで準備はかんぺき！
ふたりはどうだろ？
まだ材料探ししてるのかな？
カリン：
あの……ルーさん……。
レティル：
ルー？いるの？
ルー：
あ、来た来た！
ふたりとも、こっちこっち！
奥のキッチン！
それで、材料は？
全部あった？
カリン：
ええ、その……これなんですが……。
ルー：
え？
……これ？
カリン……シフォンケーキに、
野菜はいらないと思うんだけど……。
カリン：
す、すみません！
私、ケーキの材料ってよくわからなくて……。
ルー：
……ま、まあいいって！
ほら、野菜もジャムにしちゃえばいいし、
あまったらパパに買い取ってもらえばいいから！
そうだ、レティルは？
レティル：
あたしは、これだけど……。
ルー：
…………。
えーと……
グレープフルーツに、グレープに、バナナ……
……は、まだわかるけど……。
なんできな粉とかココアがあるのに
肝心の砂糖がないの……？
レティル：
……ルーが甘さ控えめって話をしてたし、
果物があるから、いいかなって。
……ダメだった？
ルー：
…………えーと……なんか……、
一風変わったものが、
できそうな気が……するね。
＜酒場＞
デューイ：
失礼します。
マスター：
おっ、デューイ。
おまえさんが来るとはめずらしいな。
何か用か？
デューイ：
……ええ、その……
招待状を、受け取ったのですが。
マスター：
ああ、おまえさんとこにはちゃんと
行ったんだな。
それで？どうしたんだ？
デューイ：
……聞いたところによりますと、
明日のパーティ、会場はここで、
姉さんも招待されている……
それで、まちがい、ありませんか？
マスター：
ああ、まちがいないぞ。
それがどうか……
デューイ：
マスター！
マスター：
な、なんだ！？
デューイ：
お聞きしたいことがあります！
マスター：
お……おう、なん……だ。
デューイ：
明日のパーティの席で、
アルコール分を含んだ飲み物が出る……、
ということはあるのでしょうか！
マスター：
い、いや……。
リュッタやマーロも来ることだし、
出さない予定になってるが……。
デューイ：
予定ではだめです！
決定してください！今ここで！
明日、何があろうと、ここでお酒は出さない、と！
マスター：
……な、なんで……。
デューイ：
マスター！
マスター：
わ、わかったわかった、決定する！
明日は酒は出さん！
こ、これでいいのか！？
デューイ：
…………。
マスター：
ふ、ふう……。
デューイ：
…………。
マスター！
マスター：
な、なんだ！？
デューイ：
ありがとうございます。
これで、安心できました。
マスター：
そ……そうか。
デューイ：
お邪魔いたしました。
それでは私はこれで、失礼します。
マスター：
…………。
なんだ、ありゃ……。
……姉も怖いが、弟も相当だな……。
……大丈夫か？明日……。
＜鍛冶屋＞
ロッド：
おう！らっしゃい！
……なんだ、ミーユか。
珍しいな、おまえさんがここに来るなんて。
何か用か？
ミーユ：
ええ、ハープの金具が壊れてしまい、
道具屋に行ったのですが……
道具屋の主人に、
取りよせになるため、時間がかかる、
と言われてしまったのです。
それで、こちらでなら
直せるかもしれないと紹介されたので、こちらに。
ロッド：
なるほどな。
それで？肝心の金具はどれだ？
見せてみな。
ミーユ：
ええ、これなのですが。
練習で一曲ひき終わった時に、
落ちてしまって。
……いかがでしょう。
ロッド：
……ふんふん。
なるほど、この素材じゃ道具屋には
なかなか置いてないわけだ。
待ってな、
今、奥から材料取って来てやるから。
ああ、それからな、修理が終わったら
道具屋のビルに言っとけ。
うちに来りゃ材料、
いつでもすぐに売ってやるってよ。
ミーユ：
ええ、わかりました。
お願いします。
ロッド：
……よっと。
……ああ、そういやおまえさん、
もう招待状もらったか？
ミーユ：
ええ、いただきましたよ。
ロッド：
クリスマスパーティ……ってな。
何十年ぶりかね、そんなもんに呼ばれるなんて。
ミーユ：
……おや、そうなのですか？
希代の名工と名高いあなたなら、
王侯貴族のパーティに呼ばれることも、
決して少なくないと思いますが。
ロッド：
よせよ。
こんなガサツなドワーフ野郎を
好き好んで呼ぶ貴族なんていやしねえぜ。
それに、もともとドワーフには
クリスマスなんて習慣がないからな。
……昔の仲間にどうしてもって言われて
行ったとき以来だな、
クリスマスパーティなんてのはよ。
……おまえさんこそどうなんだ。
噂に名高い吟遊詩人となりゃあ、
あちこちのパーティにひっぱりだこじゃねえのか？
ミーユ：
……私は、初めてですよ。
ロッド：
なに？
ミーユ：
こうして呼ばれるのは、初めてですね。
ロッド：
なんだそりゃ？
意外だな。
ミーユ：
……確かに年末年始となれば
あちこちに呼ばれますが、
それはあくまで詩人として、です。
行った先で歌い、
歌い終えたらまた次の会場へ移動、の
繰り返しですから。
パーティをゆっくり楽しむ
ヒマなどありませんよ。
ロッド：
……そんなもんか。
ミーユ：
ええ。
それだけ私たちの歌を望まれているのは
光栄なことですから、
それを苦とは思いませんが。
ただ、改めて思うと、
こうして純粋に客として呼ばれるのは
初めて……と言うだけです。
ロッド：
なるほどな。
ミーユ：
……しかし、残念です。
ロッド：
ん？なんでだ？
ミーユ：
明日はどうしても、
リュッタと共に
出なければならないステージがありまして。
……最悪、行けないかもしれないのです。
ロッド：
…………。
ミーユ：
……私はいいのですが、
リュッタがとても楽しみにしているので、
そのことを思うと……残念です。
ロッド：
…………。
…………ほらよ。
終わったぜ。
ちょっとそれ、ならしてみな。
ミーユ：
ありがとうございます。
……ええ、音も大丈夫ですね。
修理代はいくらになりますか？
ロッド：
そんなもん、いらねえよ。
ミーユ：
はい？
しかし……。
ロッド：
何度も言わすな、代金はいらねえ。
……その代わり、だ。
ミーユ：
？
ロッド：
明日のパーティ、
遅れてもいいから、必ず来い。
ちゃんと、リュッタのやつも連れて、な。
それが代金だ。
……いいな。
ミーユ：
…………。
わかりました。
ロッド：
よし、じゃ、おまえさんは
とっとと道具屋行ってビルに伝言して来い。
ほら、行った行った！
ミーユ：
……ロッド。
ロッド：
あ？
ミーユ：
ありがとうございます。
……それでは、また、明日。
ロッド：
おう！
また、明日、な！
12/29
＜酒場＞
招待客：
メリークリスマース！
アルター：
おっ、これうまい！
うん、うまいうはい！
マーロ：
……アルター。
飯を口いっぱいに詰め込みながら
話そうとするのやめろよ。
アルター：
ん？はんはっへ？
マーロ：
……もういい。
こっち見るな。
……ごはん粒が飛ぶ。
リュッタ：
わーい！ケーキだケーキ！
……うん！おーいしーい！
カリン：
そうですか？
そう言ってもらえると
作ってよかったです。
リュッタ：
え？
これカリンが作ったの！？
カリン：
ええ、ルーさんとレティルさんと
いっしょに、ですけど。
リュッタ：
すっごーい！
ねえねえ！また今度作っておくれよ！
おいらもっとこのケーキ食べたいよ！
カリン：
……いえ、あの、それは、ちょっと……。
デューイ：
おいしいですね、このお茶。
みなさんの持ってきた
ケーキにもよくあいます。
レラ：
あら、そう？
気に入った？
デューイ：
ええ。どこのお茶でしょう。
レラ：
気に入ったならわけてあげるわよ。
自分用に買った缶がまだあるから。
デューイ：
……このお茶、姉さんが持ってきたんですか？
レラ：
……まあ、ね。
ルー：
あ、やっぱりそうだったんだ！
ねえレラ、
頼みがあるんだけど！
レラ：
あら、何かしら？
ルー：
あたしにもこのお茶、
どこのお茶か教えてくれない？
こんなにケーキに合うんだから、
きっと紅茶シフォンにしたらおいしいと思うの！
ね、お願い！
レラ：
……いいわよ。
わけてあげるわ。
ルー：
本当？やった！
レラ：
……ただし。
ルー：
？
レラ：
できた紅茶シフォン、
一番に味見させてくれること。これが条件よ。
……どうかしら？
ルー：
うん、もちろん！
ありがと、レラ！
ロッド：
なんだ、おまえさん。
食欲ないのか？
レティル：
え？そんなことないわよ。
どうして？
ロッド：
いや、ずいぶんチマチマと食べてるからよ。
腹でも痛いのかと思ったぜ。
レティル：
ちがうわよ。クセなの。
ロッド：
……なんだ？剣士ってやつは、
飯まで切り刻まないと気がすまねぇのか？
レティル：
ちがうわよ、小さい頃に教え込まれちゃったから。
だから、なかなかぬけないの。
ロッド：
ふーん、そんなもんかねえ……。
まあ、食えなくなったらオレに言いな。
全部オレがたいらげてやるからよ！わっはっは！
レティル：
……親切に、どうも。
＜酒場・二階＞
シェリク：
…………。
ラケル：
……？
シェリク？何やってるの？
シェリク：
ラケルさん。
いえ、主に、祈りを捧げていたんですよ。
ラケル：
……お祈り？
シェリク：
ええ。当日ではないとはいえ、
今日は、主の生誕を祝う会ですから。
祝福と感謝の言葉を、唱えていたんです。
ラケル：
……そっか。
シェリクは、神様を信じているんだね。
シェリク：
ええ、もちろんです！
ラケル：
…………。
シェリク：
……ラケルさん？
ラケル：
…………。
シェリク：
どうか、したのですか？
ラケル：
……ごめん、わからないんだ。
シェリク：
？
ラケル：
……昔は、ぼくも、神様はいるんだって思ってた。
だけど……。
……もし、本当に神様がいるなら、
どうして、
森を荒らして楽しむ人間がいるんだろう、
……神様がいるなら、どうして
助けてくれないんだ……って。
……そう思ったら、
神様が本当にいるのかどうか、
わからなくなって……。
シェリク：
…………。
ラケル：
……ねえ、シェリクはわかるの？
神様がいるのかどうか……
本当にいるのなら、
どうしてあんな悪い奴らがいるの？
シェリク：
…………。
……確かに、ラケルさんの気持ちはわかります。
私にも、尊い命とわかっていても、
許せない人間はいますし、
悪に染まってしまい、どうにもならない、
そう思ってしまいたくなる人間も……
確かに、います。
ラケル：
…………。
シェリク：
……けれど、ラケルさん。
それも決して、意味のないことではない、
そう、私は思うのです。
……その全ての意味の答えを、
はっきりと出すことは、
まだ未熟な私には、できませんが……。
神は決して、乗り越えられない試験を、
人に与えたりはしない、
……そう、思うのですよ。
ラケル：
…………。
シェリク：
……あの、事件の……
ラケルさんとあの方が出会った、あの時も。
もし、配送業の方が手違いをおかし、
荷物をラケルさんの家でなく、
このコロナに届けたりしなければ……、
それを、森を荒らす人々が、
奪ったりしなければ……私たちが出会い、
こうして、仲間となることも、なかったでしょう？
ラケル：
……手違いが、なければ……。
シェリク：
ええ、それに……あの方も。
もし、あの方が、呪いを受けたりしなければ……、
私は、あの方と出会うことすら……
なかったかも、しれません。
……確かに呪いは、恐ろしいもので、
その認識が、変わることはありませんが……。
けれど……一見、悪いこととしか思えなくても、
それが、よいことに、幸せにつながっている……
そういうことも、きっとあります。
だから……意味のないことなど、
この世にはない……私は、そう……思います。
ラケル：
…………そっか。
……そう、かもしれないね。
……ねえ、シェリク。
シェリク：
……なんでしょう？
ラケル：
ぼくにも、お祈りの言葉、教えてくれないかな。
ぼく、今、神様に感謝したい気分なんだけど……。
ぼく、そういうの、くわしくないから。
……いい？
シェリク：
……ええ！もちろんです！
＜酒場・窓際＞
ユーン：
…………。
カリン：
……ユーンさん？
そんなところで、
何をなさってるんですか？
ユーン：
……！
カリン？
え、ええと。
なんでもないん……だけど……。
カリン：
……？
あら、あそこにいるのは……
シェリクさんと、ラケルさん……？
ユーン：
ちょ、ちょっとカリン！
ちょっとこっち、来て！
カリン：
ええ！？あの、ちょっと……！
・
・
・
カリン：
……もう、ユーンさん。
ラケルさんを見守ってたなら、
そう言ってくださればよかったのに。
ユーン：
……だって、なんとなく恥ずかしいじゃない。
それに、ラケルにも
気づかれないようにしてたところに
声をかけられたから、つい、あわてちゃったの。
カリン：
……ふふ。
ユーンさんはラケルさんと、仲がよろしいんですね。
まるで姉弟みたいで、うらやましいです。
ユーン：
うらやましい？
……そう、かしら？
カリン：
ええ、私、兄弟がいませんから。
そんなふうに年の近い方が身近にいること、
あまりなくて。
だから、広場で仲のよい兄弟なんかを見て、
自分にもあんなふうに兄弟がいたらな……って、
憧れてたんです。
……だから、お二人が……
うらやましいです。
ユーン：
…………。
……ねえ、カリン。
カリン：
はい？
ユーン：
確かにわたしは、
カリンのお姉さんじゃないけど……。
仲間じゃ、だめ？
わたしはカリンのこと、
大事な人間の仲間だと思ってるし……
きっと、ここにいるみんなも、そう思ってるわ。
カリンのこと、大事だって。
……それじゃ、だめかしら？
カリン：
…………。
ユーン：
……だめ？
カリン：
……い、いいえ。
そんなこと、ありません。
あの、ごめんなさい。
あの、それと……。
ユーン：
ん？
カリン：
……ありがとうございます、ユーンさん。
＜酒場・一階＞
アルター：
よう、どうだ？
楽しんでるか？
……そうか、よかったぜ！
今日はおまえのためのパーティだからな！
……あっ、そうだ！
オレも用意したプレゼントがあるんだ！
ちょっと待ってろ！すぐ取ってくるからな！
マーロ：
……相変わらずでかい声だな、アルターのやつ。
……どうだ？
クリスマスパーティ、ちょっとは
どんなものか、わかったか？
……そうか。よかった。
なあ、あれ見ろよ。
ほら、あの光ってるヤツ。
あの飾り、おれが作ったんだ。
な、いい感じだろ？
魔法学院で覚えたんだぜ、あれ。
なんだったら、また作り方教えてやるよ。
あんたにはいろいろ借りもあるからな。
……ああ、その、だから……
いつも、ありがとな。
ルー：
あ、いたいた！
ねえ、ケーキ食べてくれた？
どうだった？おいしかった？
そっか、よかった！
あ、実はね、特別に作ったトッピングがあるの！
見て見て！
……ね、綺麗でしょ？
クリスマスパーティだから、
ちょっと意識してみたんだ。
でも時間的に
ちょっとしかできなかったから、
みんなの前には出しにくくて。
よかったら、
つけて、食べてみてくれる？
……ありがと！
じゃあケーキ、持ってくるね！
……はい、あーん。
……ね、どう？
おいしい？
……本当？よかった！
……あたしね、
せっかく招待してくれたから、
何かお礼がしたかったの。
だから、喜んでくれて、
本当、よかった！
今日は本当、ありがとね！
シェリク：
こちらにいたのですか。
本日は、ご招待いただき、
ありがとうございます。
同じ主の聖誕祭でも、神殿の催しとはまた、
趣きがちがいますが……、
このような集まりも、楽しいものですね。
おかげで、有意義な時間を
すごすことができました。
ありがとうございます。
ああ、それから……その、これを。
……お渡しするかどうか、迷ったのですが……、
いつも、あなたにはお世話になっていますので。
ほんの、心ばかりのものですが……
どうぞ、お使いください。
どうか、あなたに
主の祝福と加護が、ありますように……。
カリン：
まあ、こちらにいらっしゃったのですね。
本日は、お招きいただき、
ありがとうございます。
私、このようなパーティに、
慣れていませんので、
どのようにごあいさつをしていいのか、
よく、わからないのですが……
今、本当に楽しいのです。
……あの。
その、このようなことを言いますと、
驚かれるかもしれませんが……
私、とてもあなたに感謝しているんです。
あなたとの出会いがなければ、
そして、あなたと共に冒険に出なければ……
私、きっと、こんなに幸せな気持ちには
なれなかった……そう、思うのです。
……いつも、ありがとうございます。
どうかこれからも、ずっと……
……お願い、しますね？
リュッタ：
あ、いたいた！
さがしちゃったよ！
マスターの料理、やっぱりおいしいね！
カンパイにまにあって、ほんとよかったよ！
あ、そうだ！
はい！これ、あげる！
クッキー！
ここにくる前に、ステージでもらったんだ！
ひと口食べたら、すっごくおいしかったからさ！
クリスマスプレゼントにって思って、
のこしてきたんだ！
クリスマスって言ったら、
プレゼントだろ？だからさ！
ね？
おいしいだろ？
……よかった！
……あ！
マスターが、またなんか
作ってる！
じゃ、おいら、
また食べに行ってくるね！
メリークリスマス！
レティル：
……忙しそうね、あなた。
あたし？
あたしは楽しんでるわよ。
昔は、あんまりこういう……
人が多い場所って、
好きじゃなかったけど。
今はむしろ、こういうの、
好きかもしれないわ。
……騒がしくて、楽しそうで……
気が抜けて、一瞬でも、いろいろ忘れられるのが、
いいのかもしれないわね。
……今日は、ありがとう。
あなたが招待してくれたおかげで、
ケーキを作ることにもなったし、
いろいろ、気分転換になったわ。
これでまた、明日から……。
……ううん、なんでもないわ。
今日みたいな日には、
楽しむことだけ考えるべきよね。
グラス、貸してくれる？
乾杯しましょ。
……ふふ、
メリークリスマス。
ユーン：
あっ、ここにいたの。
ごめんなさいね、
席をはずしたりして。
わたし、あんまり人間の多い場所って
慣れてないから、とまどっちゃって。
……あ、ううん。
別に、いやだってことじゃないの。
ただ、こんなふうに、みんなと一度に会うのは
初めてだから、ちょっと心配になるというか……
迷っちゃってただけ。
もう、大丈夫よ。
それに……わたし、とても楽しいの。
誰かとクリスマスを祝うなんて、
ずいぶんと久しぶりだもの。
……いいわね、あの紙の飾りとか。
見てると、なんとなく昔のこと、思い出すわ。
ああいう飾りを、
手や机をのりでべたべたにして、
一生懸命作ったこととか、
ケーキを作るために、雪の積もった森に入って、
顔や手を真っ赤にして、
木の実をさがしたこととか……。
……きっと、ラケルも楽しんでるわ。
今日はまだ、用意ができていないけど、
また、改めてお礼をさせてね。
……誘ってくれて、ありがとう。
ラケル：
ここにいたんだ。
ぼく？
……うん、楽しんでるよ。
こんなふうにみんなと集まるのって、
どんな感じなのか、
最初は、よくわからなかったけど……。
母さんやユーンに言われたんだ。
みんな仲間なんだから、いつものとおりでいい、
何も心配することないって。
本当に、そうだったね。
いろいろ、話もできたし……
来てよかったよ。
……よかった、本当に。
……ううん、違うよ。
今のは、そのことじゃなくて……。
思ったんだよ。
……もし、君に、会えてなかったら……
きっとぼくは、まだ人間なんて、って言って
話すことも、会うこともせずに、
人間のこと、みんな嫌ったままで……。
こんな気持ちになることもなかったって、
そう、思うから。
……だから、よかったよ。
君に会えて、本当に。
……ここ、なんか、暑いね。
ぼく、ちょっと外に出てくるよ。
……それじゃ、またね。
ミーユ：
本日は、お招きありがとうございます。
いえ、到着が遅れたので、
まだあいさつをしていなかったと思いまして。
……しかし、不思議な感覚ですね。
こうして大勢の人がいながら、
歌っていない自分、
と言うのもそうなのですが……、
集まっている人間のほとんどが、
親しい仲間である、と言うのも、
どこか……不思議な気がします。
……ふふ、
おかしなことを言ってしまいましたね。
忘れてください。
ああ、何かリクエストはありますか？
よろしければ、今日のお礼に、
何かお弾きしようと思うのですが……。
いえ、今すぐでなくても結構ですよ。
お礼は、無理に渡すものでもありませんし。
……何か思いつきましたら、言ってください。
では、私は、せっかくのパーティですから、
もう少し堪能させていただきますね。
メリークリスマス。
レラ：
あら、こんなところにいたのね。
どうかしら？
クリスマス、がどんなものか、
実感できてる？
……ならいいけど。
もっとも、私でもこれだけクリスマスらしい
クリスマスを味わうことなんてほとんどないから、
これで実感できないって言われても困るけどね。
……別に？
不機嫌なつもりなんかないわ。
……本当よ。
思ったより人の密度が高いから、少し態度が
きつくなってるかもしれないけど、それだけよ。
……そうそう。
はい、これ。
……大したものじゃないわ。
この前、研究所のネズミを退治してもらったから、
その返し。……お礼なんかいらないわ。
……まあ、あなたが思いたいなら、
クリスマスプレゼントだと思うのは別に……
かまわないけど。
……なんでもないわよ。
それじゃ、私は少し風に当たってくるから。
あなたはここで思う存分楽しみなさい。
デューイ：
……こちらにいたのですね。
私ですか？
ええ、楽しんでますよ。
招待状をもらったときには、
いささか不安要素もありましたが……
……いえ、こちらの話です。
気になさらないで下さい。
しかし、このように、身分も作法も問わず、
みなが楽しめる場と言うのは、
すばらしいですね。
このような笑顔を見ると、
自分も幸せな気持ちになると同時に、
この笑顔を守るため、
全力を尽くさなければならないという使命感を、
強く感じます。
……そのためにも、私は……
あなたの、力になろうと思います。
あなたがいること、それが、
この空間に、
必要なことだと……そう、思いますから。
ですから、何かあったら、
ぜひ私に声をかけてください。
……あなたのために、全力を尽くします。
ロッド：
よお！どうだ、楽しんでるか？
オレか？ああ、悪くないぜ。
酒が飲めねぇのはつらいとこだが、
カリンやリュッタもいることだしな。仕方ねぇさ。
クリスマスなんて習慣、
オレにはあんまりなじみがねぇが……
こうして仲間同士で集まって、
わいわい騒ぐのも悪かねぇよな。
飯もうまいし、
こんなのだったら、また来年も
来てもいいぜ。
……だから、おまえさんも、
今日は楽しんどけよ。
こういう一時を覚えておけば、
どんな苦しい時だって、
なんとかがんばれるもんさ。
……呪いなんかに、負けないぐらい、な。
……おっ、マスターのヤツ、
なんか持ってきやがったな。
ちょっと味見してくるぜ。
じゃあな、いいクリスマスを！
アルター：
悪い、待たせたな！
びっくりさせようと思って
奥に隠しといたんだけどよ、
その前に荷物がおかれちまっててな……
まいったぜ。
ほら、これだ。
グラス出せ。
オレのとっておきだからよ。
おまえに、一番に飲んでもらわなきゃ
始まらねぇんだよ。
……どうだ？
うまいか？
……よっしゃ、
今日までとっといたかいがあったぜ！
じゃあ、オレ、今からこれみんなに
ついでくっからよ。
終わったらまた来るぜ。
待ってろよ！
＜酒場・カウンター＞
デューイ：
マスター！
マスター：
うお！な、なんだよデューイ！
調理中だぞ！？
デューイ：
この飲み物は……！
マスター：
……あ、ああ、それ……
……そういや、さっきアルターが
なんか奥でごそごそしてたな……。
それが、どうかしたか？
デューイ：
これは、お酒じゃないですか！
一体、どういうことです！
マスター：
い、いや、待て、それはオレには関係ないぞ！
デューイ：
しかし、今回、アルコール分を
含んだものを出さない、と誓ったではないですか！
なのにお酒がここにある、
これはどういうことです！
マスター：
し、知らん！パーティだって言うから、
アルターが自腹で用意して持ち込んだんだろ？
オレは知らん、オレは無実だ！
だ、だいたい、
たった一ビンをみんなに回したところで、
そんな大した量にもならないだろう？
パーティなんだし、ちょっとぐらいで、
そんなに目くじら立てることは……！
デューイ：
量の問題じゃないんです！
マスター：
な……
どういうことだ？
？？？：
フフフフフフ……
マスター：
な……なんだ？
あの笑い声は……
？？？：
ホホホホホホホホホ！
デューイ：
姉 さ ん！
・
・
・
…………それは、冒険者の集まる、コロナの街でのお話。
いずれ歴史に名を残す、そんな旅人の、ある冬の夜の物語……。
（以下コメントにつき薄字。読みたい方はマウスでドラッグしてください。）
クリスマスイベントのイメージです。
実際のゲーム中に、ラケルのお母さんが「クリスマスを〜」というセリフがあり、ああ、コロナにもクリスマスがあるんだなー……と思ったので、そのイメージで。
最後のキャラ→主人公への語りかけ(？)的な部分は、いれるかどうか悩んだのですが、一応話の始まりが「主人公のためのパーティ」なので、あまりに主人公の存在にふれないまま終わるのもどうかなーと思って書いてみました。
普通に書いてると、ラケルとユーン、のように、どうしても自分の中でコンビというかかけあいの相手が毎回同じになってしまうので、ちょっと今回、変えてみるよう挑戦してみましたが……(それでもアルターとマーロは変わってないですが)。やっぱりちょっと難しいかも。ゲームで絡むことがなくて、それぞれの関係がわからない人も多いので。仲間だからみんなきっと仲が悪いことはない、とは思うんですけどね。
そしてお約束ですが、基本は管理人の勝手なイメージ先行ですので、メインキャラおよびマスターなども、キャラ設定およびイメージと違ったらすみません。
少しでも楽しんでいただければ光栄です。
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