理由

　おれは死ぬ。
　それも間もなく。

　……別に、認めたくなかったが……それでもそれは、はっきりしていた。

　どこが折れてどこに刺さり。
　どこがちぎれ、やぶれ、つぶれてるのか、考えるのもめんどくさいほど、あちこちが休まず痛み。
　バカみたいに暑くて寒く、きつい脈まで痛みになってうっとおしい。
　苦しいうえにたびたびむせて、ただの息さえうまくできず。
　血なのか汗なのかなんなのか、いろんなところがじっとりし。
　口の中は、歯や骨のカケラに液体が混じり、嫌な味がしてうざったく。
　そこかしこがしびれて震え、数えるのもあきらめたほど、何度も意識は薄れ、途切れてた。

　――弱肉強食は自然界の掟

　……そんなことはわかってた。

　マヌケな金もちの屋敷にいたときも、ノラ犬として路上をねぐらに生きてたときも。
　あっけない死、弱いヤツの死なんざ、飽きるほど見てきた。
　人のなわばりでやかましいだとか、弱いくせに弱いものいじめしやがってみっともねえとか、そんな気まぐれの結果、助けたことになったヤツが、数日もしないうちに冷たく転がってたことも……何度もあった。

　……はっきりしていた。

　ここでガレキに……砕けた石と砂ぼこり、血のにおいにまみれた、少し前まで床だった、この冷たい地面のみぞに、転がっていたところで。
　静かに、動かずにいたところで――この意識は消え、そのうち、冷たくなるだけだと。

　……けれど、それでも。
　それでも、このまま……冷たくなるわけには、いかなかった。

　――あの、クソ長髪ヤロウを

　いい年こいてＤＩО様ＤＩО様とクソやかましくわめき散らしながら、しつこくおれを殴り、蹴り、踏み続け。
　汗と血管を浮きあがらせた、黒とハートまみれの、気色の悪い……今は自分のスタンドの暗黒空間だとかに隠れ、姿を消しながら、部屋ごとムチャクチャな攻撃をしている、あの、長髪クソヤロウに。
　……どうにか、どうにか一泡吹かせてやるまでは。
　絶対に黙って、冷たくなるわけにはいかなかった。

　途中でどこかが切れたのか、それともつぶれたのか、片目が開かず。
　……残ったもう一方の目を無理やり開き、少し先にいる見慣れた顔を見る。

　……別に見たくもねえのに、この二週間で、見慣れてしまった、あの顔。

　……自分もズタボロで、血を流し、飛び散らし、死にかけているのに。
　ことあるごとに、あのクソ長髪ヤロウと同じぐらいか、それ以上にうるさく叫び。
　てめえも死にそうだってのに、動けなかったおれをつかみ、ともに逃げ……先におれだけ危険な円から外に出し、じっとしてろ、おめーは生きろ、おれを助けるなとか、でかい声で言い続けてる……あのバカだ。

　――うるせえな、黙ってろ

　……ここで、動かなくても。
　ここでスタンドを出さず、使わずとも。
　おまえがしつこく言ってるようにしたところで……死ぬんだよ、おれは。

　仮に、あのクソ長髪ヤロウが、また姿を現した後。
　砂に隠れたおれに気づかず、襲ってこなかったところで……そんなもんせいぜい十分後か、今かの違いだ。

　――だから、おまえしかいねーんだよ

　……ズタボロだろうと、ところどころ欠けていようと。
　その太い手足は、でかい身体は、スタンドは。
　ここで死ななきゃ、わずかでも生きのびりゃ。
　……おれよりはまだ、動くだろ。

　あの、死ぬほど気に食わねえ、クソ長髪ヤロウに。
　おれをこんな目にあわせて、こうしてまともに立つことすら、息すら、ロクにできなくした……アヴドゥルを殺した、あのヤロウに。
　時間がないおれの前で、一泡吹かせられるのは、もういねーんだよ。……おまえしか。

　あばよじゃねーだろ。気どってんのはどっちだ。カッコつけておれの名前を呼んでる場合かよ。……バカヤロウが。

　……最後に。
　天井近くの柱にはわせた『愚者』で、その体を持ち上げて。

　自分の攻撃が決まって死んだと思い、姿をあらわした、あのクソ長髪ヤロウが。
　まんまとだまされ、生きていたあいつを見て、名を叫び、顔をゆがめたのを見て。
　……おれは、笑えた。

　ざまあみろ。ざまあみやがれ。
　……やっちまえ、ポルナレフ。

（以下コメントにつき薄字。読みたい方はマウスでドラッグ、もしくはこのあたりをクリック後、Ctrl+Aなどで反転してください。）

　５部アニメが第一話や二話からオリジナル描写が多めにあったのを見て「ああ、そういえば、３部アニメのときも、８割９割はよかったけど、一部オリジナルなナレーションとか描写はちょっと私とは解釈違いだったなー」と思い出したので、自分なりの解釈をざっくりと文章に。

　あくまで私個人の解釈ですが、イギーの場合、ポルナレフへの友情がないとは言わないものの、どちらかと言えばヴァニラ・アイスが気にくわない寄りなんじゃないかなーと、アニメ放送時に思ってたので、数年越しに、自分の中ではこんな感じ……をいぬ年のいぬの日記念ついでに発表。

　一人称は原作で「おれ」や「オレ」だったりしますが、とりあえずこっちの方が多いかなと「おれ」で統一。犬って視力が弱いとか、あまり汗かかない気が、とかもちらっと思いましたが、基本原作の描写を参考ということでご容赦ください。

　キャラ好きとしては正直３部でＤＩОの館突入後を読むのはつらいし、基本的には脇役・モブなどの第三者視点はともかく、ジョジョのメインキャラの内面について私程度が解釈・書くのはおこがましい、と思っているので、こういうのはたぶん今回のみだと思います。

　ささやかなものですが、おつきあい、ありがとうございました。