ももいろの恋物語

　……むかしむかし、あるところにとても豊かな国がありました。

　たくさんの砦に囲まれて、守りをかためたその国のお城には、背は低いけれど優しい王様と、王様の娘のお姫様が住んでいました。

　美しくて明るいお姫様は、国のみんなのアイドルでした。

　けれどそのために、娘を心配した王様からなかなかお城から出してもらえず、お年頃になったお姫様は、いつも高い所にある自分の部屋から、庭と外の世界を見下ろして、ため息をついていました。

（あーあ、街に出かけてみたいなー……。
　お父様は心配しすぎなのよ。
　危険だからお城のお庭までしか出てはいけない、なんて。

　それに、おかしいわ。
　お父様はいつも言ってるじゃない。
　この国は、たくさんの砦があるから安全なんだって……）

　けれど、どうすれば外に出る許しをもらえるのかが、お姫様にはわかりません。
　そうして、いつものようにどうすればいいのかを考えながらため息をついていたある日、お姫様は、庭に何かがあることに気がつきました。

　気になってじっと目をこらしたお姫様ですが、窓から見るそれは、あまりに小さすぎて形もよくわかりません。どうしても気になったお姫様は、庭におりてみることにしました。

　お城の長い階段をおりて、庭にたどりついてみると、そこには丸い穴と、それをかこむヒモ、そして注意書きがありました。

「危険・近づかないでください」

　……そう言われると、かえって気になってしまうのが人のさが。おまけにお姫様はそれを確めるために長い階段をおりてきたのです。……このまま帰る気にはなれません。

　お姫様は注意書きのそばまで近づき、そっと穴をのぞきこんでみました。

　穴には規則正しい足場が並んでいて、その奥には何も見えない暗闇が広がっています。

（いったいこの奥には、何があるのかしら？）

　お姫様は考えましたが、答えは出てきません。

（思い切ってこのヒモを乗り越えて、この穴の先へ進んでみようかしら……？）

　お姫様はしばらくそう思って穴をのぞき込んでいましたが、底の見えない暗闇が、なんだか怖くなってきてしまい、その日は奥を確めることなく、部屋に戻ることにしました。

　しかし、次の日も、また次の日も、その穴は庭にあり、お姫様にはその正体がなんなのか、穴の先には何があるのか、気になって仕方ありません。

　そしてとうとう５日後のこと、お姫様はヒモをとびこえ、その穴に足を踏み入れることにしたのです。

　細くて規則正しい足場に足をかけ、あたりを確かめながら……ゆっくりと穴の中に入っていきます。

　見えない暗闇の奥から何か変なにおいがした気がして、ちょっと嫌な感じがしましたが、今日は行くと決めたの！ぜったい確めるんだから！と自分に言い聞かせ、慎重に足元を確認し、足場に手をかけながら、奥へともぐっていきました。

　そうして、どれだけ時間が過ぎたでしょう。いつまでたっても足場が続き、かたいはずのお姫様の決意も、だんだんとゆらいできました。

（いつまでおりればいいのかしら……）

　自分はどこまで来たのだろう、そう思って暗闇と足場を見つめていた目を上に向けると、太陽がはるか遠く、小さくなっているのに気がつきました。

　その瞬間、お姫様の背筋がぞくっと逆だちました。
　自分が日の当たる庭からこれだけ遠くにいると知った途端、急に怖くなってきたのです。

（……今日はここまでにして、もう帰ろう！
　ここまではわかったもの、
　また明日、この続きを確めればいいわ！）

　お姫様があわてて地上へと戻ろうとしたその時です。

　震えた手がすべってしまい、お姫様はバランスを崩し、まっさかさまに落ちてしまったのです。

　暗闇を落ちながら、お姫様は絶望的な気持ちでいっぱいでした。

（ああ……きっと私は死んでしまうんだわ。
　そしてこの暗闇で、誰にも気づかれないまま消えてしまうのよ……）

　そうしてやってくる衝撃に身がまえ、瞳をかたく閉じたその時です。

　何かが揺れて、そしてひどく低い音がお姫様の耳に届きました。

　ついに暗闇の底にたどりついた、今は痛くないけれど、きっとすぐに痛みが襲ってくるんだわ、そう思ったお姫様は、目を閉じたままさらに身をかたくしましたが……いつまでたっても痛みが襲って来ないのです。

　ふしぎに思ったお姫様が目を開けると、若くたくましい男性が、心配そうにお姫様の顔をのぞきこんでいました。

　そのたくましい肩からのびる２本の腕はお姫様の背にまわされていて、お姫様は、この男性が自分をうけとめてくれたのだと気がつきました。

　……男性はお姫様に無事をたずねました。
　お姫様が無事だと答え、礼を言うと、男性は安心したのか、にっこりと笑いました。

　その笑顔に、お姫様は目の前がきらきらと輝くのを感じ――お姫様と男性の恋は、こうして始まったのです。

　それから穴の中で出会った……マンホールの下で工事をしていた男性は、お姫様と、お城の庭で会うようになりました。

　最初は、助けてくれたお礼、その次は、あれだけじゃお礼がたりない、自慢の手作りのお菓子を渡さなくちゃ、その次には……とあれこれ理由をつけていましたが、時がたつにつれ、理由なんかなくても、お姫様は毎日、庭までの長い階段をおりるようになりました。

　男性もまた、最初は地下の工事を口実に、城へとやって来ていましたが、そのうち工事が終わっても、地下からお姫様に会いに来るようになったのです。

　そんな二人を、城の人たちがあたたかく見守っていた、ある日のことです。

　お姫様に見せたいものがある、そう言って男性は、お姫様に穴の中についてきてくれるよう頼みました。お姫様は穴から落ちたことを思い出して、少しとまどいましたが……今回は前と違い、大好きで頼れる恋人が一緒なのです。

　少し考えた後、一番仲良しの従者に内緒ね、と言うと、男性の後をついて、穴の中へ入っていきました。

　男性について入った穴はやっぱり暗くて、少し変わったにおいがしましたが……それでもお姫様は男性に手をひかれ、複雑な道のりを進んでいきました。

　そうしてたどりついた先で、最後の足場をのぼりきったとき……お姫様は信じられないものを見ました。

　そこには、とても広く、美しい景色が広がっていたのです。

　お姫様はとびあがらんばかりに喜んで、お城の庭がこんな場所につながっているなんて、と、とても驚きました。

　景色を見つめながら、こんな場所だったら何回来てもあきないわ、と目を輝かせるお姫様に、男性は言いました。

　ここを気に入ってもらえたのはうれしいけど、一人で穴に入ってはいけない。
　穴にはたくさんの分かれ道があって、ちゃんとした道を知らないと、すぐに迷ってしまうから、と。

　お姫様はうなずき、恐ろしい暗闇の中で働く勇気を持っているだけでもすばらしいのに、その複雑な道を知りつくしているなんて、なんてすてきなのかしら、と男性を誉めました。

　男性は喜び、もしどうしても穴に入りたくなって、迷ってしまったり、何か困ったことがあったなら、いつでも自分を呼ぶといい、お姫様のためならいつでも駆けつける、そうお姫様と約束したのでした。

　それからしばらく経った、ある日のことです。

　いつものようにお城の食堂で朝ごはんを食べていた王様とお姫様のもとに、誰かがやってきたのです。

　こんな時間から何ごとだ、そう注意した王様は、その誰かの姿を確め、驚きました。

　……そこにいたのは、王様自慢の、国を守る砦の責任者だったからです。

　砦の責任者がこんなところにいるはずがない、そう言いながら立ち上がった王様に、砦の責任者は言いました。

「王様……大変です……。
　我らの砦が……あいつに……」

　そこまで責任者が言ったとき、あらあらしい足音を立てて、新たな人物が食堂へと入ってきました。

　攻撃的なトゲをまとい、王様の倍もありそうな体をした大男が、傷ついた姿で言葉を止めた責任者を尻目に、王様とお姫様を見下ろしていたのです。

　大男は言いました。

「自慢の砦はすべていただいた。
　この国はもう、オレのものだ！」

「なんだと、そんなバカな……！」

　その言葉の途中で、王様の視界の中を何かが通り過ぎました。

　王様がふり返ると、たった今まで傷ついて倒れていたと思われていた責任者が、槍をお姫様ののどもとにつきつけ、ぎらぎらと目を光らせていたのです。

　あまりのことに呆然とする王様の行く手を、さらにはばむものがありました。
　さっきまでいつものように立っていた、見知った付き人のうちの２人が、長く鋭い槍を持ち、王様の前に突き出していたのです。

　その光景を前に、大男はにんまりと笑うと、くるりと回って言いました。

「……つまり、こういうことだ。
　こんなふうにして、おまえたち自慢の砦もいただいたのさ。

　窓からよく見てみるといい！
　砦にはすべて、オレのものという印をつけてきたからな！」

　大男がそう言うと、槍を持った付き人たちは、王様を窓ぎわまで追い立てました。

　追い立てられた王様が窓から外を見ると、なんと自慢の砦には、大男の顔を模したハタが立ち、ぱたぱたと風に揺れているではありませんか。

　王様がわなわなと震えていると、大男は続けて言いました。

「さて、これでこの国はオレのものだとわかってもらったと思う。
　あとは、この城をいただこうと思ったわけだが……

　ここはダメだな、小さすぎる。とてもオレが住めそうにない。

　……そこでだ」

　そう言って、槍を突きつけられていたお姫様を、片手でいとも簡単にかつぎあげたのです。

「この城はおまえに管理させてやろう。
　しかし、ここはオレの城であるということを忘れず、
　さらに妙な気を起こさせないために……

　この女はもらっていく。

　……こんな美しい娘の命を、この若さで散らしたくはないだろう？ん？」

　そう言いながら大男は自分のあごをなで、お姫様をかついだまま、王様に息を吹きかけました。

　その息の熱さにあてられたのか、それとも限界に達したのか、息に触れた途端、王様はその場に倒れてしまいました。

　絶望が城に満ちる中、お姫様はめいいっぱい、助けを、この場にはいない恋人の名を、必死に呼んでいたのでした……。

　その日の夕方、城で起こった事件も知らず、仕事を終え、お姫様のことを考えていた男性の家の扉を、誰かがはげしく叩きました。

　誰だろう、と男性が扉を開くと、そこには、お姫様の一番仲良しの従者が立っていたのです。
　その従者の暗い表情に驚き、男性が何かあったのかと尋ねると、従者は答えました。

　大男にそそのかされた裏切り者のせいで、国の砦がすべて落とされてしまったこと。
　さらに、王様も襲われてしまったこと。
　そのため、いまや自分たちの国は、その大男の部下と裏切り者たちが、我が物顔でねり歩いていること……。

　そして、城にやって来た大男に、姫がさらわれてしまったことを。

　このままでは、姫がどんな目にあうかもしれない。
　この敵にかこまれた道を無事に進み、砦を奪い返し……姫を助けられるのは、地下工事の専門家で、土管の道を知りつくしたあなたしかいない、そう言うと、従者は男性に頼みました。

　「このままでは、姫が……！
　　お願いです、どうか姫を助けてください！
　　マリオさん！」

　「わかった！　くそう、クッパめ！
　　待っていろよ、ピーチ姫！」


　こうして、長い長い冒険は、幕を開けたのでした――

fin
<to be continued Super Mario Bros.>

（以下コメントにつき薄字。読みたい方はマウスでドラッグしてください。）

　友人と話していてできた話です。いえ、電話で話題になって、いろいろと確かこんなんだったよ〜と説明していたら話として書きたくなりまして。タイトルや某有名ゲーム、の時点でネタバレみたいなものですが、一応トリックとして成功してたらうれしいなーと思います。
　また、あくまで元祖の説明書、あとファミコン版のゲーム内描写あたりで勝手にイメージした話ですので、ＲＰＧや何かで既にエピソードとしてあったりしたらごめんなさい。
　少しでも楽しんでいただければうれしいです。