マモノになったヒトのはなし

　むかしむかし、あるところに一人の男が住んでいました。
　ある日、出かけた男は、ケガをした女性を見つけました。
　しかし、驚いたことに、女性の背中には、鳥のような翼が生えてたのです。

　驚きながらも男が女性に話を聞くと、彼女は空に浮かぶ、竜の神さまが治めるお城に住んでいたのですが、翼にケガをして地上に落ちてしまい、そのままお城に帰れなくなった、と言うのです。

　ケガが治るまでどうか自分を置いてください、という女性の頼みを聞いた男は、しばらく女性を自分の家で面倒を見ることにしたのでした。

　……しかし、そうしてともに時間を過ごすうち、二人の間には恋が芽生え、女性はお城に帰ることをやめてしまい……地上で、男とともに暮らすことにしたのです。
　……そうして、二人は子供をさずかりました。

　けれど、子供が生まれてくるのを心待ちにしていた、ある日のことです。
　二人の暮らす家を、一人の男が訪ねてきました。

　その男は女性と同じように背中に翼を持っていて、竜の神さまが治める、空に浮かぶお城からやってきたと言いました。そして、女性を強引にお城へ連れ帰ろうとしたのです。

　妻を連れて行かれそうになった男は、翼の男を止めようとしました。しかし、そのうちにそれは争いとなり……そこで、悲劇は起きました。
　……二人の争いの巻き添えを受けた女性は、血を流して倒れ……そのまま、命を落としてしまったのです。

　倒れた女性を見た翼の男は、その場から逃げ出し……残された男は、とても悲しみました。
　すると、女性の亡骸から這い出てくるものがありました。
　……それは、本来ならば、決してまだ外に出てくるはずのない、二人の子供だったのです。

　男は驚きながらも、その子を助け、育てることにしたのでした……。

　空に浮かぶ城に住んでいた女性、そして地上の男の間に生まれた男の子は、すくすくと育ちました。
　その子はとても力強く、そして賢く、男が見たこともない魔法を使い、さらに、ときおり魔物をも手なずける、不思議な力を持っていました。

　そして、父親から母親のこと、自分が生まれたときのことを聞いたその子は……その力を、空に浮かぶ、竜の神さまが治めるお城への復讐のために使うことに決めたのです。

　大きく、強く成長したその子は、その力で多くの魔物を手なずけて部下にして……魔物たちと自分が住むための、大きな大きな建物を作りました。そしてさらに、さらに強くなるために、力を高める研究を始めたのです。……そうして、魔物たちの王となり、長い研究を続けた結果……その子は進化の秘法、というものを生み出しました。……それは生き物本来の進化をあやつり、新たな生き物を……これまでにない、強力な生き物を生みだす方法でした。

　……その子は魔物たちや人間たちを、そして自分をも実験台として、研究を続け……長い長い時間をかけて、元の姿を失う代わりに、それはそれは恐ろしい力を手に入れました。その姿に魔物たちは尊敬を、人間たちは恐れを込めて『地獄の帝王』と呼びました。

　けれど、そのことを知った竜の神さまは、空に浮かぶお城に住む、翼を持った人々、そして自らに協力する人間たちと共に、その子の住む建物へ……そのときには神殿と呼ばれていたその場所へと、攻め込んだのです。

　翼を持つ人々、地上の人間たち、そして魔物たち……互いに多くの者が命を落とした、長い長い戦いの末、魔物たちは敗れ、その子……地獄の帝王、エスタークは、神殿ごと大地の底に封じられました。……そして、空に浮かぶお城を……天空の城を治める竜の神さまは、決めたのです。

　今後、天空の城の人々に、地上の人間と交わり……子を作ってはならないと厳しく定める。……もしこのおきてを破った者がいれば、厳しい罰を与える、と。

　こうして、天空の人間と地上の人間は、その距離以上に引き離されることとなり……数百年の間、天空と大地の間には、平穏な日々が続いてました。

　……翼を持った一人の娘が、地上へと落ちる、その日まで……。

――fin