夢語り

　……夢の世界について聞きたいの？
　そうね、何から話しましょうか……。

　夢の世界は心の世界……そうね、確かに、そう言えるかもしれないわね。
　人々の心が集まり、現実では実現できない希望や願望を形にしている世界。
　私たちも、ずいぶんとそのことに……今では入れない水の洞くつや、空飛ぶベッドに……人々の心に、助けられてきたものね。

　けれど、夢の世界といっても、美しいことばかりじゃないわ。
　人間ですもの、美しい面もあれば、醜い部分だってある……それに、つけこむ存在もいる。
　……あなただって、知ってるでしょう？私たち、長い旅の間、ずいぶんといろんなものを見てきたものね。

　そんなふうに、人の心はさまざまだから……一概に、夢の世界について話すことは難しいわ。それは、人の心を語ることに似てるから。同じ出来事でも、誰かにとっていいことが、誰かにとって悪いことだってある。……本当に、いろいろ、としか言いようがないわね。

　でもね、これだけは私、はっきりと言えるの。

　確かに夢の世界は、この世界よりも人の心を映し出し、願いを形にはしやすいけれど……でも、それは決して一人だけのものじゃない。

　確かに強い願いは、強くその世界に影響して、その願いを持つ誰かに、都合のいい世界に見えることもあるでしょうけど……それだけじゃ、決して世界は動かない。
　一人の願いだけじゃ、世界が……都市や町、村と言った集団が、その一人だけに都合がいいように動くことは、決してないの。

　……思い出してみて、大金持ちになって幸せに暮らしたい、そう願っていた男性のことを。思い出してみて、現実で、そして夢の世界でも、世界の平和を願っていた人たちを。

　もし、たった一人の願いだけで、本当に世界が動いていたなら……あの世界の形は、私たちの見てきた世界とは、もっと違っていたはずよ、そうでしょう？

　だから、あなたがいたあの村は……あなたが、あの世界で見ていたライフコッドの村は、決してあなたの思い、それだけでできていたわけではないの。
　……あなたの願いが、無関係だったとは言わない。けれどそれは、あなただけの願いではなかったの。

　あなたがあの村で生まれ育ち、血のつながった妹さんと、共に助けあい、幸せに暮らしていて。
　妹さんを好きな村の青年とも仲よく話をして、村の人たちや村長さんと力を合わせ、一緒に、幸せに過ごす……それは、あなたも含めて……あのライフコッドの皆が、心から望んでいたことだったのよ。

　だから、自分の願いが、夢の住人を歪めていたなんて思う必要はないの。
　……たとえそれが、本当の世界と同じ姿でなかったとしても。
　あなたのいた場所……それは確かに、皆の望みでできていたものだったのだから。

　……いいえ、お礼なんていらないわ。
　少しでも、あなたの力になれたなら。
　あなたには、たくさんのものをもらったもの。
　……それこそどれだけお礼を言っても足りないくらい、ね。

　……もう行くの？
　……そうね、あなたも忙しいものね。
　あなたに夢の導きがあるよう、祈ってるわ。

　……ああ、待って。
　私、言い忘れていたことが……あなたに、言いたいことがあったの。

　……もし、あなたが……今でもあなたが、夢の世界を望んでいるなら。
　そのときはファルシオンの……天馬の力を借りればいいわ。
　世界のはざまをも越える翼……この世界と夢の世界をつなぐ力は、今でも確かに残ってる。
　ファルシオンだって、長い旅を共にしてきた仲間なんだもの。きっと、願いを叶えてくれるはずよ。

　……確かにそれは、世界の均衡を崩すことかもしれない。
　でも、そうでもしなければ、世界を飲みこもうとするあの男の野望を止められなかった……世界を、救うことができなかったんだもの。

　……この世界を救ったのは、あなたなのよ。
　それぐらいのわがまま、言ったっていいはずだわ。

　……もちろん、決めるのはあなたで、私ではないけれどね。

　ごめんなさいね、ひきとめて。
　……ええ、気をつけて、帰って。

　……ねえ。

　もし……もし、私の力が必要なら、いつでもここに会いに来てね。
　あなたのためなら、私、いつだって力になるから……。

　……青い髪の青年が、扉から明るい外へ出ていくのを確めて。
　三角の帽子をかぶった小さな老婆……グランマーズと呼ばれる、紫のローブをまとった高名な夢占い師の女性は、奥の暗がりから、ひょっこりと顔を出した。

　「……よかったのかい、あれで」

　声をかけられた金髪の女性……グランマーズを師と慕い、この占いの館で共に暮らすミレーユは、ただ静かに微笑み、うなずく。
　……その深い緑色の瞳に、迷いのない光をたたえて。

　「……そうかい」

　老婆はその返事を見届けると、くるりと振り返り、また、奥の暗がりへと歩を進め――

　「まったく、不器用な娘だねおまえも」

闇に消えるその瞬間、そう、ミレーユに聞こえるように呟いた。

　「もう、おばあちゃん！」

　言葉を受けたミレーユが、頬を赤く染めて抗議したのを確めて。
　老婆はかかかと、明るい笑い声を響かせた……。

――fin

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　SFC版６リプレイ・クリア記念に。

　大まかなストーリーだけは頭にありながらリプレイしたので、結構途中のイベントも、いろいろと思うところがありまして……それで勝手に自分の解釈をまとめた感じです。現在未発売のDS版リメイクで、もしかしたらなにかあるかもしれませんが……まあSFC時点での、個人の勝手な解釈ということでひとつ。

　一応ミレーユ視点・エンディング〜スタッフロール内的なイメージですが、相変わらずセリフの言い回しとか迷いますね。もう占いババことマーズさん視点にしようかとも思ったのですが、うん、それも逆に難しい、とこんな感じになりました。

　短いネタですが、おつきあい、ありがとうございました。