きみへ

　――夢を見ていた。
　長い夢を。

　長くて、熱くて。
　大変で、夢中で、目まぐるしくて……だけど、楽しくて。

　たくさん笑って、たくさん泣いた。
　たくさん勝って、たくさん喜び。
　たくさん負けて、たくさん落ち込んで、たくさん悔しがって。
　たくさん励まされて、たくさん助け、たくさん、助けてもらった。
　……そんな夢で。

　だけど、終わって。
「夢だった」
　……そうわかって、思った。

（……嫌だ、忘れたくない。
　覚えていたい）　

　そう思って、前に手を伸ばし。
　瞬間、見えた。

　大小重なった三角にも、花びら三つの花にも似た、あの形。
　戦って、何度も何度も、目にうつした。
　夢の世界で、何度も何度も光り輝いてた、大切な友だちの……ひたいの、絆の紋章。

　……いつか、教えてくれた。
　この紋章には、力があって。
　その力で、記憶を……世界を越えても、あった出来事を、友だちの見た記憶を……伝えることが、できるって。

　……そうやって、何度も何度も。
　元いた世界の記憶を、出来事を。
　見せてくれた。思い出させてくれた。

　……もう一度、思った。

（忘れたくない、覚えていたい）

（お願いだ、消さないで。
　もう一緒には、いられないのだとしても。
　せめて……覚えていさせて）

　そう思って、絆の紋章に手を伸ばす。

　そして、音がして。
　友だちの紋章が、黄色く、白く……強く光って。

　気づけば、手を握っていた。
　……大切な友だち、戦いが終わり、別れ……もう二度と会えないと思っていた……『絆の勇者』の手を。

　世界は真っ暗で、何もなく。
　だけど友だちの……『絆の勇者』の姿だけは、はっきり見えて。
　手をつないだ『絆の勇者』は、少年を見て。

「ダイ」

　聞きなれた声でその名を呼び、よく見なれた、いつもの顔で笑った。

　……それがダイには嬉しくて、何か言いたかったけど、なぜか言葉が出てこなくて。
　少しの間、二人でただ見つめあった後……『絆の勇者』が、言葉を発した。

「……ありがとう、ダイ。
　たくさん、助けてくれて。たくさん、一緒に戦ってくれて。……たくさん、一緒にいてくれて。
　本当に助かった。本当にうれしかった。本当に……楽しかった」

　『絆の勇者』が、なんだかいつもよりも、おしゃべりな気がして。
　長く、声を聞いていたい気がして。
　……ダイは黙って、つないだ二人の手を見つめた『絆の勇者』の言葉に、耳を傾けた。

「……考えてたんだ、ずっと。ダイの戦いの軌跡を、戦いの結末を見てから、ずっと。
　自分にできることはなんだろう、何があるだろうって。

　そして、思いついたけど……でも、困ってた。

　……もしダイが、ミラドシアのことを。『絆の勇者』のことを、ピラちゃんのことを。
　忘れていたら、何のことか、わからない。
　……わからなくて……たぶん、使えない、助けになれないんじゃないかって」

　なんのことだろう、ダイがそう思っていると『絆の勇者』が視線を上げる。
　そしてダイの目をまっすぐに見て、とても、嬉しそうに笑った。

「……ありがとう、覚えててくれて。
　ありがとう、ミラドシアのこと、忘れたくないって、絆を消したくないって、思ってくれて。
　本当に本当にありがとう。

　だから、今、ダイを見つけられた。
　だから……今、力になれる」

　その言葉が終わるや否や、ダイは背後で、何かが光った気がして。
　ダイが振り返ると、そこには、見覚えのある……ミラドシアで何度も見たものと、同じ形の扉があり。
　……『絆の勇者』は、言葉を続けた。

「……いつか、ピラちゃんが言ってたみたいに。
　ダイの世界と、ミラドシアとは、時間の流れが違うけど。

　それでも、たくさんの時空のゆがみから、場所をつきとめるには。
　そして特定の世界の特定の場所と、つなぐ扉と鍵を作るには……長い時間が、必要で。

　だから、あのときから……少し、時間が過ぎてしまってると思う。
　……だけど」

　そう言いながら『絆の勇者』は、手をはなし。
　ダイがとまどっていると、同じ手に、鍵を握らせてきた。

　それは『絆の勇者』の相棒……ピンク色のドラキー、ピラちゃんのしっぽにあったのと、同じ形の鍵で。
　手を開いて、その鍵を見た瞬間だった。
　――聞きなれた『絆の紋章』の音がして……ダイの中に、今までのすべての記憶が、流れてきたのは。

　ポップやレオナ……仲間たちと共に、大魔王バーンとの決戦にむかい……長い長い戦いの末、勝ったこと。

　そして、最後の刺客、ピロロ……本物のキルバーンが隠していた、恐るべき爆弾、黒の核晶から地上を守るため……黒の核晶と共に、空へと向かい……爆発を自らのすべてで抑えこみ――意識を、失ったこと。

　そして、そのまま姿を消したダイのことを……ポップやレオナ、マァムやヒュンケルにクロコダインたち地上の仲間が、世界中、みんなと力を合わせて探しまわったが、見つからず。
　それでも、ダイの剣の持つ宝玉の赤い輝きで、ダイが生きていることを知り……世界中がダイの帰りを、待ち続けていることを。

「……その扉はね、つながってるんだ。
　今のダイが、行きたいところ。
　……ダイが一番守りたかった、一番大好きな、みんながいる世界に」

　世界を覆う暗闇が、一気に薄まり。
　薄闇の向こうには、地上が……空から見たような、美しく広い世界があらわれ。
　……そして、はっきりと姿の見えるようになった世界とは逆に、ダイの目の前にいる『絆の勇者』の姿は、急激に薄まり、透け始めた。

「……ごめんね、時間がかかって。……ゴメちゃんみたいに、すごい力もなくて。
　黒の核晶の大きな爆発から生まれた、ここみたいな……暗闇の牢屋のような、不安定なたくさんの『時空のゆがみ』の中から、気を失ったダイを見つけ出すことも。ダイが通れる、扉と鍵を作ることも。
　ピラちゃんやゼバロ、ロウィ様やミラドシアのみんなに力を貸してもらって。紋章の力も使って、一生懸命やったんだけど……それでも、なかなかうまくはできなくて。
　できるなら、爆発の前に……ううん、もっともっと前から、助けてあげたかったけど……そういうことも、できなくて。
　……これが……こうして、ダイを見つけ出して、戻る道を、ここに作るのが……せいいっぱいで」

　待って、そう言って、薄くなる『絆の勇者』にダイは手を伸ばしたが……届いたはずのダイの手は、まるでそこに何もないかのように、さっと空を切った。

「……ごめんね。今は、この時空のゆがみの中に、扉と鍵を存在させるのがせいいっぱいで。
　姿をたもつ力が、たりないんだ。
　だけど、もう一回ダイと会えて、話せて……本当に、よかった。

　今度こそ、もう二度と、会えないと思うけど……一緒に過ごした時間は、本当に楽しかったよ。
　会えなくても、ずっと友だちだって思ってる。……ずっと、忘れない。
　だから……どうか、ダイの一番好きな世界で……大切なみんなと……どうか、幸せに」

　そう言いながら、薄らぎ、顔すら定かではなくなった『絆の勇者』は、ダイの手をとり、扉に向かわせる。
　光のもやのような『絆の勇者』の手には、ほとんど力はなかった。
　……それでも、ダイはその手に導かれ、扉に鍵をさしこんだ。

　音を立て、扉が開く。

　その音を聞いて、ダイは『絆の勇者』が、笑ったような気がした。
　見なれた、いつもの顔で。

　……扉の先には、光があふれ。
　強い赤い輝きに、目を開けていられず、ダイは目を閉じた。

　しばらくたって、まぶた越しに感じる光が弱まり。
　聞こえた鳥の声に誘われるように、そっと目を開く。

　青く美しい海と空。
　そして鮮やかな花と、白い石に彩られた、赤く光る宝玉を持つ、自身の名を冠した剣が……ダイの目に、飛び込んできた……。

――fin

（以下コメント、読みたくない方は飛ばしてください）

　「魂の絆」エンディング見て、個人的にあるといいな、と期待してた要素、なかったなーと思ったので。そこらへんの個人的希望をふんわり混ぜたメインストーリーエンディング後、ダイ個別（スペシャル？）エンディング……的な話です。主人公はA・B（女・男）タイプどっちでも。ゲーム上、絆レベル最大の10で「大親友」にもなれるので、一人のダイの親友、一人の別世界の勇者の話として、こういうのもありかなと。

　あと4/27には「魂の絆」がサービス終了なので、コメントついでに「魂の絆」の主に前半を読んで確認した設定などをメモっておくと。

　（キャラメイク後）光と共にミラドシアに出現した主人公。
　その後、デルムリン島を船で出発・ロモスへ向かう途中の海上……だったらしいダイとポップが、ミラドシアに出現。
　主人公の相棒になるピンクドラキーのピラちゃんいわく
「ミラドシアとダイたちの世界は外見がそっくり」
「ミラドシアはゼバロという驚異の敵が滅ぼそうとしている」
「ミラドシアが滅ぶとダイたちの世界も滅ぶ」
「ミラドシアとダイの世界では時間の流れが違うので、危機が解決すればいつでもロモスへ向かう途中の海上に戻せる」
「時空のゆがみを感知するとピラちゃんが反応、新しい仲間やいいアイテムなんかのある時間限定ダンジョンが出現する」
「主人公の母親的な存在がロウィ様」

……あたりを参考にしつつ書いてます。

　あと、この話用に勝手に作った設定は

「ダイのいる時空のゆがみは時間が止まっていて、物は入れるが、生きてるものが入ると強制アストロンか凍れる時間の秘法的な形で行動不能、さらにそのまま入口から出すとチリとなって消えてしまう……ことが判明したため、ゼバロや主人公といった絆の勇者、あるいはゼバロとピラちゃんと主人公の協力で具現化した仲間的な存在しか入ることができなかった。そのため、ダイを救う方法を見つけ出すための長い時間が必要になり、ダイを見つけたときには、ダイの前で姿を長時間たもつ力までは主人公に残ってなかった」
「絆の旅路のエンディング後、ダイはキルバーン爆発後の時間軸に、ミラドシアの記憶を持ったまま戻った」あたり。

　……あんまり勝手な設定作るのもどうかなとは思ったのですが。おまけついでに軽く追加説明。そして書いてから気づきましたが、別に無理にこの自作の時空のゆがみ説を採用しなくても、ダイが魔界や天界のどこかにいて、ミラドシアが時空のゆがみで時々そことつながり、ダイがいると気づいたためにがんばった……でもいい気がします。お好きに。

　勢いで書いた短いネタですが、ここまでおつきあい、ありがとうございました。