ティータイム
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)

　――ティータイムって、なに？

　……その言葉がサラの頭をよぎったのは、もう月も高くなった時間のことだった。

　酒場のマスターの紹介で、給仕の補充人員として、初めてこの店にやって来た、新米の冒険者。

　そうしてやって来るすべての者に対してするように、サラはその冒険者に簡単な仕事の説明をし、そして最後に、何か質問はあるか？と尋ねたその答えが……これだった。

　予想外の質問に、サラは一瞬言葉を失った。
　サラが想定していた質問と言えば、ティータイムは何時から何時までですか、とか、ティータイムを過ぎたのにそのメニューで注文をされた時はどうしたらいいですか、とか、そういったものだったからだ。

　確かにこの酒場はいろいろな者が訪れるし、説明することには慣れていたが……日雇いとは言え従業員相手に、そこまでさかのぼって教えることになったのは、ずいぶんと久しぶりだった。

　……あとでよくよく話を聞けば、竜の呪いによって過去の記憶がないうえに、サラにその冒険者を紹介した酒場のマスターは、わからない時はとにかく人に聞けばいい、と教育しているらしく、それならば仕方ない、と納得し、今日は無事に終わったが……。

　湯気の香るティーカップを前に、いつもより少し肩が重い気がして、サラはふう、と小さく息を吐いた。

　――……けど、すべてが新鮮だとは、ある意味うらやましいわね。

　サラは紅茶の香りを、吐いた息の代わりに、深く吸い込む。

　――もちろん、本人にとって
　　　過去の記憶がないと言うのはつらいことだろうけど……。

　酒場の経営は順調で、端から見れば順風満帆の人生に見えるだろうが、毎日が、同じリズムの繰り返しであることは否めない。
　新鮮な喜び、初めて出会うものへの驚きと輝きからは、めっきり遠ざかっている。

　……そういう意味では、あの子はひどく新鮮だ。

　――もっとも、使いものになるには、
　　　ずいぶん時間がかかりそうだけれど。

　人よりもずいぶん遅いティータイムをとりながら、サラはそう呟き、苦笑した。


　紅茶を飲み終え、皿も空になった頃、扉を叩く音がして、いつもの従業員の声がした。
　食器の回収に来たのね、とサラが扉を開けると、手袋をはめた黒いタキシードの従業員は一瞬口ごもる。

　どうかしたのか、とサラが尋ねると、従業員は言った。

　……今日はずいぶん、ご機嫌ですねと。

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05:安らぎの場所を読む

かえるの絵本スキーに30の御題