コロナの朝
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)

　鳥の鳴く声が響く、まだ日の昇りきらない森の中。
　まだ薄い木陰を、美しいエルフが歩いていた。

　その足取りが、いつもより軽いのが、エルフ自身にもわかる。
　金の髪のエルフ……ユーンは、そんな自分に戸惑いながらも、浮かれる理由、その原因を思い浮かべた。

　あの、人間との出会い。

　森でたまたま拾った指輪を取りに来た、あの人間。
　自分の頼みを聞き入れ、最後まで力を貸してくれた人間の姿。

　まだ出会ったばかりだし、ほんの少しいいことをしたからと言って、信じすぎるのは軽率だ、そうも思うのだが……。
　それでも、あの人に会えた、それが自分の心を軽くしているのは、疑いようがなかった。

　人間にもいい人がいる。すばらしい人間もいる。

　人間を好きだった、父の言葉。それを、信じていいのかもしれない。そう思えること、それが、うれしくて。

　もっと、あの人と話がしたい、そう思って、次に会った時の質問を考えている自分さえいた。

　人間は……あの人は、いつもどんなふうに過ごしているのだろう。

　コロナの街って、どんな感じ？
　いつも、何を食べているの？
　森や木は好き？好きな花はある？

　……そんな他愛のない質問が、次々と浮かんでくる。

　ふと気がつくと、こちらにやってくる人影があった。
　ユーンはいつの間にか上がっていた唇の端を戻し、じっと前を見つめる。

　あの髪の色、背丈、間違いない。
　……あの人だ。

　視線の先にいるのが、まさに今自分が思い浮かべていた相手だと気づき、ユーンはくるりと背を向ける。
　気づいているのかいないのか、相手が変わらぬ速度で、ゆっくりと近づく音が聞こえた。

　ユーンは、深く森の空気を吸い込む。
　……心地いい酸素が、落ち着くための材料が欲しかった。

　相手が立ち止まり、ユーンに声をかける。
　ユーンは少し息を吐くと振り返り、できるだけ自然に声を出した。

　「……おはよう。
　　ねえ、コロナの朝は、どんな感じ？」

(from.美しき森の番人)

08:弱点を読む

10:森の声を読む

かえるの絵本スキーに30の御題