弱点
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)

　「オレの弱点？」

　夜のとばりもおりた、闇に包まれた森の中で。
　パチパチと音を立てながら燃えさかる、緋色のたき火に照らされながら、ひげもじゃのドワーフ、ロッドは、すっとんきょうな声を出した。

　あまりの声の大きさに、質問をした若者とロッドの間に座していた魔術師の少年が、肩を震わせ、若者に目を向ける。

　だが、ロッドの険しい目つき、魔術師の少年の物言いたげな目にも、若者は気づかず、無邪気に目を輝かせ、ロッドの答えを待っていて……魔術師の少年は、内心で、あーあ、と呟いた。


　……元はといえば、食事が終わり、たき火を囲んでいた時に、魔術師の少年の仲間、ロッドの依頼を受けたこの若者が、彼の強さの秘訣を尋ねたことが発端だった。
　ベテラン冒険者のロッドが、魔物を次々と打ち払うのを見て、その強さに純粋に感動したらしい。

　酒が入っていたこともあるのだろう、ロッドは気分よさそうに、笑いながら声を張り上げ、さまざまな武勇伝とともに効果的な訓練の仕方を語っていたのだが……話の流れと言うのは不思議なもので、そこから弱点の話になり……若者が、この質問をするに至ったのだ。

　武勇伝よりもはるかに強い声の勢いと、険しい目つきに、魔術師の少年……マーロは、若者が質問を違えたと思ったが……意外にも、少しの沈黙の後、ロッドはあっさりと答えた。

　――回復と、技能だな、と。

　目を丸くするマーロをよそに、ロッドは手にしたどぶろくを一口のみ、言葉を続ける。

　――オレは戦士だからな。
　　　魔物に対して、力でひけをとることはほとんどないが……
　　　回復の魔法が使えないから、
　　　仲間や自分が傷を負った場合は役に立たねえし、
　　　崩れた道をどうにかしたり、
　　　宝箱を取るのは得意じゃねえ。

　そこまで説明すると、ロッドは酒の匂いをひろげるように、大きく声を上げて笑った。

　意外な反応に、今まで黙っていたマーロが、そんなにあっさりと自分の弱点をばらしていいのか、と思わず疑問を口に出す。

　それを聞いたロッドはにやり、と笑うと、

　――自分の弱点を知っておくことも一流の冒険者の条件だ。
　　　それに、弱点があるから仲間がいるんだよ。覚えとけ。

そこまで言って、マーロの頭をくしゃっとなでた。
　髪を乱されたマーロは、少し不機嫌そうに眉をひそめ、ロッドに尋ねる。

　……ではなぜ、さっきはあんなすっとんきょうな声を上げたんだ、と。

　ロッドはその視線を、最初に質問した若者に向けると、

　――面と向かって聞いてくるやつはめったにいねぇからだよ。
　　　おまえさんは大物だぜ！

と今度は若者の頭をぐしゃぐしゃと揺らした。

　酒の匂いと共に豪快な笑い声が響く中、髪をくしゃくしゃにされた二人は顔をあわせ、それから、目にした互いの姿に吹きだした。

(from.オレがコロナの武器職人)

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かえるの絵本スキーに30の御題