不器用で、無邪気な
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)

　「えー、いないんですかー？」
　「まあ、仕方ないよ、そうそうは会えないって」

　そう言って、去っていく客の背中が、小さくなったのを見届けて。

　――不思議な、ヤツだよな。

　緑の髪の男性、コロナの街の酒場の主人は、いつものように皿を磨きながら、小さくそう呟いた。


　ほんの数ヶ月前に、この街を訪れ、この酒場の二階の二人部屋に居を構える、新米の冒険者。
　確かに、少し不思議な瞳をしていて、どこからどう見ても、悪いやつには見えないが……かと言って、決して人より器用なわけでもなければ、特別すごい才能があるようにも見えない。

　普段ここで冒険の依頼を待っている戦士や、時折ここを訪れる魔法使いと比べ、それほど成長速度が速いわけでもないし、仕事にしても、特別有能とは言い難い。

　にもかかわらず、いくつもの依頼を積極的にこなし、成功させ、今ではあいつ目当ての客が来るほど、立派な有名人だ。

　街に来たばかり、何もかもが不思議そうで、慣れない手つきで、よく皿を割りそうになったのを思い出し、いつの間にこんなことになったのか、と酒場の主人は考え……

……いや、と小さく呟き、皿を磨く手を止めた。


　……単純に、あいつは誰よりも懸命なのだろう。

　自分の呪いの期限が決められている、そのこともあるだろうが……不器用でも、すぐにうまくいかなくて、遠回りすることになっても、それでも真剣に、ためらわず、一つのことを満足いくまで、最後までやり通す。

　真剣すぎて、時々体調不良を起こしかけたりもするが……無邪気に、全力で取り組んでいるからこそ、目ざましい成長を遂げているのに違いない。

　そう思えば、今の状況は、ちっとも不思議ではない、か……と納得し、皿磨きを再開したところで、ふと気がついた。

　――竜の呪いにかかってかえるになっていただけでもじゅうぶん不思議だし、それだけで有名になってもおかしくないか、と。

21:魔法学院の休日を読む

23:もう戻れないを読む

かえるの絵本スキーに30の御題