魔法学院の休日
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)

　コロナの街の、魔法学院。
　魔道士を目指すものの門戸として、そして、大規模な魔法の研究機関としても名高いこの学院を訪れる者は、後を絶たない。

　そのために、常日頃忙しいこの学園であるが、入学式の季節となると、それもさらにひとしおで。
　休日にもかかわらず、数日後に迫った式の準備のために、出勤した学院の受付嬢、ナヴィは、受付カウンターの中で、大きな一息をついていた。

　……毎年のこととは言え、この時期の忙しさには、目が回る。

　一つ仕事が終わったと思えば、その次、さらに次、といつまで経っても終わりが見えず、あとどれくらいあるのかと確かめれば、一日が二十四時間では足りないとしか思えなくなるような、その残量。

　それを職員一丸となって、なんとか期日までにとりおこなうという、ある意味一年でもっとも学院が団結する、充実した時期でもあるのだが……。

　とは言え、休日出勤、本来は休める日にも仕事となると、やはり軽く疲労もこぼれ出るというもの。

　ナヴィが山と積まれたパンフレットの確認の手を止めていると、受付の正面、学院の入口を、誰かが出て行くのが目に入った。

　誰だろう、と目をこらすと、手に何かを持った、青い髪の教員の姿が浮かび上がる。

　「――スタット先生」

　姿を確認すると同時に、ナヴィはその相手の名を呼んだ。
　名を呼ばれた教員、スタットは足を止め、受付を振り返る。

　「……あら、手紙ですか？」

　ナヴィはスタットの手にしていた何か、長方形の封筒に目をとめる。
　横長の薄い青、ふちに飾りの入った、どこか女性的な封筒。
　……少なくとも、業務用の手紙には見えず、ナヴィはスタットに尋ねてみた。

　「もしかして、恋文ですか？」

　「いいえ」

　いつもの笑顔であっさりと否定され、ナヴィはあら、と少し残念そうな顔をする。
　ナヴィの表情とは裏腹に、スタットは変わらない笑顔のまま、

　「授業参観のお知らせですよ　大事なね」

そう言って、門を後にした。


　「……授業参観？こんな時期に？」

　スタットが去った後、そう呟き、ナヴィは誰もいない入口を見つめる。
　もしかしてごまかされたのかしら、そんなことを思って視線を手前に戻すと、パンフレットの山が、まるで押しかける人込みのように、台上に高く積みあがっていた。

　「……まあ、いいわ」

　一息ついたことだし、とナヴィはパンフレットに手を伸ばし、自身の仕事を再開する。

　これを受け取り、真剣に目をこらす新入生を、これから始まる学院での時間に、希望で目を輝かす姿を想像すると、こんな休日も悪くないか、そう思えてきて、ナヴィは仕事に専念した。

　――……もちろん、振り替え休日は、もらいますけれどね。

　そう、呟きながら。


　同じころ。
　決められた場所に置かれた箱の前、薄青の手紙を投函して、スタットもまた、呟いていた。

　――とても大事な授業参観です、どうか頼みますよ……
　　　ステラ姉さん。

(from.虹の宝珠)

20:大切な友達を読む

22:不器用で、無邪気なを読む

かえるの絵本スキーに30の御題