悩み、泣き、笑い
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)

　厳しい寒さが静かに眠り、花のつぼみが、ほころび始め。
　コロナの街にも春の足音が聞こえる、朝のこと。

　朝もやの残るコロナの街を歩きながら、魔道士の少年、マーロは、考えていた。
　……酒場の二階にかえると住む、不思議な冒険者のことを。

　出会ってもうすぐ、一年になる。
　会ったばかりの頃は、こんなふうにあの冒険者のことを考える日が来るなんて、思ってもいなかった。


　最初に見た時は、妙に頼りなくて。
　おまけにその数日後には、魔物に襲われて……これはおれが目にかけてやらなきゃ、危なくてしかたない。
　だから、手を貸してやるか、たまには、声かけてやるか……それが、始まりで。

　けど、魔法で、冒険で、一緒に悩んで。
　うまくいかなくて、少し泣きそうになったこともあって。
　けれど一緒にがんばって、成功したときは、本当にうれしくて。
　そんな時は、何もかも忘れるくらい、笑いあって……
　――この一年、一緒に、成長してきたんだ。


　朝の空の下、思い返すその一つ一つの出来事が、自分の中に根ざしていることを、マーロは実感する。

　……だから、失いたくない。
　おれの持つ力で、守りたい。

　そう思い、マーロが拳を強く握りしめた時、街の人々がざわめいた。
　直感的に空を見ると、そこには空を横切る、竜の影があって。

　重い空気が立ちこめ、脅え、うろたえる人々の中。
　それでもマーロは、拳を握り、その影を、じっと見すえていた。

25:選択の時を読む

27:手に入れたものを読む

かえるの絵本スキーに30の御題