ベスト・フレンド
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)

　赤い竜の、咆哮が響き。
　それは山を越え、森を揺らし、コロナの街にまで届いていた。

　街に残った人々に、緊張が走り、空気がぴんと張りつめる。

　しかし、こわばった空気の中、いつまで経っても、竜の影も、翼の音も、恐ろしい咆哮も、街に届きはしなかった。

　動きを止めたまま、戸惑う街の中で、駆け出す影があった。
　街でも名の売れた、冒険者たち。
　街の者が見守る中、その影は次々と増え、そして皆、同じ方向に向かっていった。

　誰かが言った。
　もしかして、赤い竜が倒れたのだろうか？

　言葉はざわめきを呼び、街を揺らす。
　そうだといい、けれど、もしそうでなかったら……。
　信じたい気持ちと不安が入り混じり、ざわめきはますます広がる。

　そこに、人影が現れた。
　朝から姿を消していた、冒険者だ。
　装備や服が傷だらけで、ところどころ穴があき、いったいなんだ、と街の人々は目を見はる。
　だが、衣服とは裏腹に、足取りはしっかりとして、唇には、笑みが浮かんでいて。
　さまざまな感情の混じった人々の視線の中、冒険者は、大きく息を吸い込むと、街いっぱいに響き渡るような大声で叫んだ。

　赤い竜が、倒れた知らせを。
　倒したのは、竜の呪いを受けていた、酒場の冒険者だと。

　――街は、一瞬で歓喜の声に包まれた。


　今現在、賞賛の中にあることを知らぬまま、赤い竜を倒したその足で。賢者のもとに向かう冒険者は、さまざまなことを思い出していた。

　賢者に会う前のこと。
　初めて、賢者に会ったときのこと。
　街を訪れ、出合ったさまざまな人々と、仲間。
　そして、思い出した記憶のことを。

　そのとき、歌が聞こえた。
　明るい森の景色を思わせる、優しい歌。
　賢者の神殿に向けて、足を動かしながらも、冒険者は、歌の聞こえた方向を見る。

　……そこには、かえるがいた。

　その顔は、部屋で待っているはずの、冒険者の一番の友だちのかえるではなかったが、冒険者と目が合うと、かえるはにっこり笑い、歌を続けた。
　足を進める冒険者の視界に、次々とかえるの姿が飛び込んでくる。

　……賢者の神殿への道沿いに、かえるが、そして動物たちが一列に並び、歌を歌っていた。

　明るくて、優しい曲。
　森の木々からのぞく木漏れ日、そして泉のせせらぎを思わせる、そんな歌で。
　そして賢者の神殿が見えたところで、最後の大合唱が始まった。

　――輝ける未来に、希望をこめて

　……冒険者が目を見開いた瞬間、一匹のかえるの姿が飛び込んできた。一番向こう、動物たちの先頭に立つ、冒険者の一番の友だちの、かえるの姿が。
　かえるはにっこりと笑うと、冒険者に向けて大きな声でないた。

　かえるの言葉で、「おめでとう」と。

28:それよりも大切なことを読む

30:ありがとうを読む

かえるの絵本スキーに30の御題