ありがとう
(「かえるの絵本スキーに30の御題」作品)

　その日、コロナの街に、たくさんの声が響いた。
　祝福、賞賛、英雄の歌。

　そして、たくさんの、感謝の言葉が。

　数えられないほどの感謝の言葉を告げられ、自身もまた、感謝の言葉を告げて。
　夜遅く、酒場の二階の自室に戻った冒険者は、かえるに尋ねた。

　いつからあんな……森に並んで、動物たちと合唱する準備をしていたのか、と。

　かえるは言った。

　少し前から。
　きっと、帰ってくると思っていたから、みんなで迎えてあげたかった、と。

　びっくりしたケロ？とかえるが聞くと、冒険者は一つうなずき、満足そうにかえるは笑う。
　それからかえるは、ぴょんと部屋をはねだした。

　冒険者が少し不思議に思いながらも見守っていると、かえるはどこからか、一輪の花を取り出した。

　これは？と尋ねると、かえるは言った。

　――誕生日プレゼント。

　意味がわからず、さしだされた花を、冒険者が不思議そうに見つめると、かえるは続けた。

　――今日は赤い竜を倒して、呪いが解けた日。
　　　だから今日からがきみの何にもしばられない、
　　　新しい人生の始まり。

　つまり、もう一つの誕生日だケロ、と。

　満面の笑みのかえるから、冒険者は花を受け取り、笑う。
　かえるはうれしそうにうなずくと、今度は机の上に飛び乗った。

　本当は、これもみんなで歌いたかったけど、時間が足りなかったから……そう言いながら、一つ、せきばらいに似た声を出す。

　冒険者がじっと見つめる中、かえるは、よく知られている、生の祝福の歌を歌い始めた。
　部屋の中に、優しい歌声が流れる。

　歌が終わると、冒険者は拍手をし、それから、今日最後の感謝の言葉をかえるに告げた。
　心の底から、思いを込めて。


　夜の空。
　その真ん中に、ぽっかり月が浮かんで。
　月の光の下、コロナの街は、いつまでもいつまでも、生の幸福を噛みしめていた。

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かえるの絵本スキーに30の御題