二人の天使〜憧れの舞踏会

「まったく、あんたって本当にしょうがないんだから」

　そう言ってロザリアは、アンジェリークの手をとった。
　高貴で、しかし少し甘い香りがただよい、アンジェリークは思わず香りに気をとられ……

「ちょっと、アンジェリーク、足！」

……ロザリアの声を受け、あわてて、足を動かした。

　――もとはといえば。
　女王候補たちのもとに、舞踏会の招待状が届いたのが始まりだった。

　女王補佐官、ディア様主催の舞踏会。
　出席者には、特別なドリンクとスイーツ、スナックなどがふるまわれ。
　ドレスや靴など、舞踏会にふさわしい衣装は宮殿から貸し出され（期日までの予約や持ち込み可）。
　所定の時間にはダンスタイムがあり、参加も自由。
　……何事もなければ、守護聖たちも全員、出席するという。

　金の髪の女王候補アンジェリークは、自分の部屋で、届いた招待状を読み

（……ということは、あの方から……ダンスに誘われることも……あるのかも？）

と想像し、顔を赤くした……まではよかったが。

（……ちょっと待って、私……舞踏会のダンスなんて、どうしたらいいのかわからないわ）

とすぐに気づき……思わず、顔を青ざめた。

　得意でない……だけならいいものの。
　うっかりすれば、会場で転び、アクセは飛んで、グラスやお皿を破壊、アクセを紛失するような大惨事。
　さらに舞踏会用のドレスや靴などもボロボロになり、お目当ての方に恥をかかせ、冷たい目で見られ……なんてことになったら……と想像し、さらに顔は青ざめる。

　そこに

「ちょっと、アンジェリーク、いるのかしら？」

と、扉のノックと共に、同じ女王候補のロザリアの声がしたものだから。

「ああー、ロザリア〜助けてー！」

と思わず泣き声で、助けを求めることになり……ロザリアは、ちょっ、ちょっとおちつきなさい！と、アンジェリークをなだめることになったのだった。

　……アンジェリークをなだめ、話を聞いたロザリアいわく。

　はっきり言えば、別に舞踏会用のダンスを覚える必要はない。
　そもそも、どうしてもダンスの心得が必要であれば、身も心も美しい理想の女性とも言える、女王補佐官であるディア様のこと。招待状に書くか、その前にダンスについて聞いてくるはず。
　それがないということは、仮に女王候補や守護聖たちが全員不参加でも、問題のない程度にダンスをする人たちを集めているか、ダンスがなくても楽しめる余興などを用意しているはず。

　また、守護聖たちにしても。
　完璧な女王候補であるロザリアならば別としても、庶民出身のアンジェリークに、そんな期待をかけている……とは思えない。
　そもそもダンスには誘わないか、仮に誘っても苦手、踊ったことがない、などと告げれば、気を利かせて、バルコニーや中庭に誘ってくれるはずよ、と。

「もっとも、アンジェリーク、あんたが日ごろから
『私ダンスやってたんです、舞踏会でもあれば、一緒に踊って腕前を披露できるんですけど☆』
……なんて言いまわってたってなら別だけど」
「…………」
「ちょっと、アンジェリーク、まさか……本気でそんなこと言ってたりしないでしょうね？」
「い、言ってないわ。
　誤解されるようなことも言ったことがないか、ここに来てから今までの会話をなるべく思い出してただけよ」
「……ならいいけど。とにかく、別に踊れなくたって問題ないわよ。ああ、あとは……」
「あとは？」
「……あんたがお目当ての人に声をかけられて、思わず
『はい！喜んで！』なんて言ってしまえば別だけど」
「…………」
「ちょっと、今なんで目をそらしたの。まさか、できもしないのに言っちゃうつもり？」
「…………じ、自信……ないかも……」
「……あのねえ」
「……だって、女の子の夢じゃない！舞踏会で、ドレス着て、大好きな人と踊る、なんて……」
「……あーもう……あんたってコは……しかたないわね！」
「え、ちょっと、ロザリア？」

　アンジェリークの手をひいて、広間まで場所を移し。
　軽く周りを見渡すと、ロザリアはアンジェリークの手をはなし、くるり、とアンジェリークの方を向いた。

「……いい？さっきも言ったけど、無理にダンスを覚える必要はないの。
　誘われても、踊ったことがないって言えば、基本、相手がリードしてくれるはずだからね。
　……リードもできないようなお相手は、そもそもあんたをダンスに誘ったりしないと思うし。

　ただ、どうしても踊りたいって言うなら、最低限のステップ……足さばきを覚えないとダメ。

　こっちに行くときはこう、こっちに行くときはこう。前はこう、後ろはこうよ。
　……これさえ覚えれば、相手の足を踏んだり、転んで恥をかかせることもないはず」
「……こう……とこう？」
「そう、それでいいの。そして、前と後ろは、こうとこうね。
　……これさえ覚えれば、あとは、相手が引く手にまかせればいいわ。
　あとは、焦らないことと……事前に、靴を借りて練習するのもいいかもね。
　慣れない靴だと、どうしても勝手がちがうから」
「こう……こう。それでこう、こう……うーん……手を引かれながら……うまく、できるかしら？」
「そんなこと、私に聞かれてもわからないわよ、練習あるのみね」
「え〜そんな〜ロザリア〜」
「……まったく、あんたって本当にしょうがないんだから」
　そう言って、ロザリアは、アンジェリークの手をとり……
「ちょっと、アンジェリーク、足！」
……ロザリアの匂いに気をとられ、足を止めてしまったアンジェリークは、あわてて、足を動かした。

　しばらくの間。
　ロザリアのリードで足を動かしていたアンジェリークだったが、ロザリアが時間を見て、休憩をとることにして。二人は、広間の椅子に腰かけた。

「はー……結構、疲れるのね」
「覚えようと気をはってるからよ、慣れればだいぶ楽になるわ。
　ただ、当日はドレスといつもとは違う靴だから……そっちでも無意識に気をつかって、疲れるかもね」
「うう……絵本なんかだと優雅に見つめ合う、二人の時間〜って感じだったのに」
「……気持ちはわかるけど。
　美しい夢を現実にするには、それなりの努力がいるってことよ。
　……あんただって、お目当ての人と優雅に踊って……夢のひと時、過ごしたいんでしょ？」
「……うん、そうよね……がんばる」
「そうよ、この完っ璧な女王候補である私が直々に指導してあげてるんだから、がんばって、優雅に綺麗に踊ってもらわないと困るわ」
（ロザリア……自分で完璧とか言わなければ……本当に美人でスタイルもよくて……いい人なのに……）
「なに？まだ練習やりたりないの？」
「ううん、今日は……もういい」
「そう、じゃ、次はいつにする？
　それとも……先にドレス、一緒に見に行く？慣れておいた方がいいでしょ？」
「あっ、そっか、そうよね。……ねえ、ロザリア」
「なに？」
「話聞いてて、ちょっと気になったんだけど……
　ロザリアは、舞踏会で、誰かお目当ての……一緒に踊りたい人、いるの？」
「…………内緒」
「えー、そんなぁ」
「あら、なら、あんたが先に言いなさいよ」
「そ、それは……その……」
「じゃあ教えてあげなーい」
「えー」

　……こうして、二人の女王候補は、女王補佐官ディア主催の舞踏会にむけ、練習の日々を過ごすこととなった。

　果たして、二人の女王候補は、舞踏会でお目当ての方と、素敵な時間を過ごすことができるのか。
　あるいは、無事に舞踏会を迎えることができるのか。
　はたまた、初めて見る美しい男性二人……ほんの少し、いたずら好きの女王補佐官と女王の、男装し、踊る姿に、心を奪われてしまうのか……それはまた、別の話。

（以下コメントにつき注意。読みたくない方は下のリンクか「戻る」機能使って逃げてください。）

　Twiiterのワンライ企画（基本１時間以内に小説などを完成させる企画）「#アンジェ深夜のポットラックパーティー」の参加作品になります。お題が『キスから始まる』と『舞踏会』と『残り香』で『舞踏会』。……たしかスマホのストップウォッチ機能使って57分で、残り時間修正してて59分。

　ここに出すためにもう一度見直して、軽く改行とか表現を一部修正。誤字脱字も確認しましたが、〇『女王候補』→×『女性候補』と一つしかなくて、い、意外と私にしては誤字少なかったな！と驚いてました。……私が気付いてないだけかもですが。もし見つけたらそっと教えてやってください。心から感謝します。

　普段、時間を考えて物を書くことがないので、後半時間足りなくて焦ったりしたけど楽しかったです。……意外と書けるもんだな。初挑戦で平均知らないので、多いのか少ないのかわかりませんが。あと一応前日にオチまで全部考えてから書いたので、ちょっと反則かも。

　たぶん私はこれなら書きやすいかも、と主に女性陣ばかりですが、書いてて楽しかったです。恋愛云々はおいといて、二人には親友として末永く幸せでいてほしい。お付き合い、ありがとうございました。