おかしな話

☆１

「ロザリア、お願いがあるの」

　女王候補ロザリアの部屋で、テーブルのそばに並べられた、椅子の一つに腰をかけ。
　ロザリアのばあやが注いだ、気高く香るお茶の入った、美しいティーカップを前にして。
　もう一人の女王候補、金色の髪の少女アンジェリークは、それはそれは真剣な瞳で、そう言った。
　……その真剣なまなざしに、対面した青い瞳の女王候補、ロザリアは思わず息をのみ。
　黙って次の言葉を待つロザリアに、少し間をおいた後、アンジェリークはこう続けた。

「私と一緒に、バレンタインのチョコレート、作ってくれない？」

「……いいわよ」
「本当？」
「……まったく、あなたってば、真剣な顔で何を言うのかと思ったら」
「だって、ロザリアに断られるかも……って思ったら……」
「別に断ったりしないわよ。……よっぽどの理由があれば別だけど」

　バレンタイン。
　２月14日。……諸説はあるが、主にチョコレートなどと共に、女性が男性に、愛の告白をする日。

　二人が女王候補として招かれ、生活をしている飛空都市では、次代の女王を決める女王試験の真っ最中であり……本来、飛空都市では、外界こと外の世界や惑星とは、時間の流れが違う……形になってはいるが。
　現女王のはからいにより、女王試験中である現在は。
　二人の故郷の惑星と、飛空都市の時間の流れを、同じにしてあり。
　年中行事や季節のイベントもまた、同じ日に行われている。

　飛空都市でのことなので、そこまで行事、イベント一色……というわけではないが。それでも当日が近づけば、それなりに行事、イベントに応じた品々が、次々と街に姿を見せて。
　女王候補とはいえ、若い女性でもある彼女たち、そして若い男性でもある守護聖たちから見れば、それなりに、心に浮きたつものもあり……金の髪の女王候補、アンジェリークが、同じ女王候補であるロザリアを誘いに、彼女の部屋を訪れたのである。

　そしてアンジェリークの言葉を聞いたロザリアは、ばあやの入れた、あたたかいお茶を一口飲んで……

「でも、アンジェリーク、作るのは別にいいけど……あなた、チョコレートやお菓子作りは得意なの？」

アンジェリークに、そう尋ねた。

「うん、大丈夫！」→☆２へ

「それが実は……全然ダメなの」→☆３へ

☆２

「うん、大丈夫！
　私、お菓子作るの好きで、ここに来る前はお家でよく作ってたの！」
「あら、そうなの、それならいいけど」
「……そういえば、ロザリアはどうなの？」
「私は……」

「もちろん、得意よ」→☆４へ

「……アンジェリーク」→☆５へ

☆３

「それが実は……全然ダメなの」
「ええ？じゃ、なんで手作りチョコレートなんて考えたのよ」
「だって、お店に並んでるお菓子の材料とか完成した写真を見てたら……こんな素敵なものが簡単に作れるんだ、それなら私も作ってみたいなーって。
　でも、ほとんど作ったことのない自分だけだと不安で……。
　だけど、ロザリアなら、なんでも得意そうだし……一緒に作れば、私がおかしなことやったら、しっかり教えてくれるんじゃないかなーって」
「……あのねえ、アンジェリーク」

→☆６へ

☆４

「もちろん、得意よ。なんたって私は、完璧な女王候補ですもの」
「そうなんだ、じゃ、作ったらお互い交換しよ！
　うふふ、楽しみ！ロザリアの作るお菓子なら、きっとすっごく綺麗で、おいしいのよね！」
「……アンジェリーク、あなたまさか、それが目当てじゃないでしょうね？」
「そ、そんなことない……けど」
「……本当に？」
「ほ、本当よ。……でも、最近、バレンタインのお菓子の材料がたくさん並んでるでしょ？
　それを見て作りたいなーって思ったと同時に、ロザリアも作るのかな？って思いついて。
　ロザリアの作るものって、絶対、おいしいし綺麗で、お店でも出せそうってぐらい素敵だろうな〜って思ったから……それが食べられるなら、嬉しくって」
「……まあ、いいけど。でも、交換ですからね、ちゃんとあなたも作るのよ？」
「もちろんよ！腕によりをかけるわ！ロザリアの口にあえばいいけど」
「そう、期待してるわ。……あまりにもおいしくなかったら、思う存分言ってあげるから」
「ええ……そんなぁ。……ひどいわ、ロザリア」
「……ちょ、ちょっと、冗談よ。何も今、そこまで泣きそうな顔することないじゃない」
「だって……ママから教わった自慢のレシピなのよ。いくらロザリアからでも、それを悪く言われたら悲しいわ。……もちろん、人それぞれ、味の好みがあるのはわかってるけど」
「……アンジェリーク……。
　……わかったわ」
「……え？
　ど、どうしたのロザリア、なんだか急に……目つきが……」
「……さっきは純粋に協力するつもりだったけど、あなたがそのつもりなら……それほど、今回のバレンタインに熱意があるのだとしたら、私も同じ女王候補として、おくれを取るわけには……負けるわけにはいかないわ。
　……私も、私のプライドとカタルヘナの家名にかけて、腕によりをかけたレシピで勝負するわ。
　食べたらもう、二度と忘れられないような、カタルヘナ家秘伝の、すばらしいお菓子を仕上げてあげる！」
「……え、ちょっと……ロザリア？」
「首を洗って待っていなさいアンジェリーク！当日が楽しみね！」
「え、ええー！？ロ、ロザリアー！？」

　……こうして、どこかで勝負スイッチの入ってしまったロザリアとアンジェリークは、互いの生家の名誉をかけて、お菓子対決をすることになってしまった。
　この対決時に作られたお菓子のレシピの数々が、後に宇宙のどこかにあるスウィートランドのスモルニィ学園に伝えられ、数々の名勝負を生み出すことになった、と言われているが……定かではない。

エンディング１
　〜お菓子の話をしていたらおかしなことになった話〜

選択肢に戻る→☆２へ

あとがきを読む

☆５

「……アンジェリーク、私のばあやはね」
「え？ばあやさん？……さっきお茶を出してくれた、あの？」
「ええ、そうよ。あのばあやは、とても優秀な女性でね。……もしもばあやが若いころに女王試験があったら、まず間違いなく女王候補に選ばれていた、というぐらい、すばらしい人なのよ」
「ええ、そうだったんだ」
「それが今こうして、私と一緒に女王試験に来てくれているの。私、ロザリア・デ・カタルヘナは、ばあやのサポートがあってこそ。私たちは二人で一つ、一心同体と言ってもいいぐらいよ」
「……そう、とっても仲が良いのね、うらやましいわ」
「……つまりね、これがどういうことかと言うと」
「うん」
「ばあやが作ってかごに詰めたサンドイッチに布をかければ、それは私手作りのサンドイッチということになり、ばあやが作って箱に入れたお菓子に私がリボンをかければ、それは私手作りのお菓子ということになるのよ！」
「ええ！？
　じゃ、じゃあ、今まで私が見たことのあるロザリアの手作り料理は、全部ばあやさんが！？」
「……そういうことになるわ」
「し、知らなかった……本当に……？」
「冗談よ」
「え？」
「冗談よ」
「……や、やめてよ、信じちゃったじゃないの！なんで今そんな冗談！？」
「今、ばあや自慢がしたかったからよ」
「急に？」
「そういうものじゃない？」
「……ごめんなさい、わからないわ。私、自慢したくなるようなばあやさんはいないから」
「そう、ならしかたないわね。話を戻しましょう」

→☆６へ

☆６

「私がお菓子作りが得意だとしても、いいえ、仮に一流のパティシエだったとしても……それが今回作りたいもの、と一致するとは限らないでしょ？
　たとえばだけど、私がホイップたっぷりの苺のパンケーキが大得意で、出来がプロ並み！だったとしてもよ？……ジュリアス様やゼフェル様が、それを喜んで食べるとは……思えないでしょう？」
「ああ……それは……そうね」
「もちろんそれぞれと仲が良ければ、喜んで受け取ってくれる……かもしれないけど。でも、決しておいしく食べてはくれないと思うわ。どんなにがんばって作って、どんなに出来が良かったとしても……相手の、好みの味じゃないんだもの」
「……うん」
「だから、大事なのは相手の好み。
　たとえに何度も使って悪いけど、もしも今回のバレンタイン、ジュリアス様がお目当てなら……高級なチョコレート店で、ジュリアス様好みの味を探した方がいいと思うし……どうしても手作りにこだわるって言うなら、女王補佐官のディア様やばあや、あるいは作りたいものを得意とする、一流パティシエに、教えてくれるよう頼むか……いっそ食べ物じゃなくて、別の手作りできそうなプレゼント、用意した方がいいと思うわ」
「たしかに……
　ねえ、ロザリア」
「何？」
「聞いてて思ったんだけど……もしも、もしもよ？
　もしも私が、相手の好みを考えて、作るのをやめて、お取り寄せなんかにするとして。
　今回のバレンタイン、渡したいお相手が……もしも、私とロザリア、二人とも同じだったら……ロザリアは、どうする？
　それでも、私と一緒に作ったり、プレゼント、一緒に探して……協力してくれたりする？」

「……かまわないわよ」→☆７へ

「……か、か、か、かまわないわよ」→☆８へ

「……そうね、そのときは……断るわ」→☆９へ

☆７

「……かまわないわよ」
「え、本当に？」
「ええ、だって、私は信じているもの。いくら好みの味とはいえ、チョコレートやお菓子、プレゼントをいただいたぐらいでは……私とあの方、二人の気持ちが、揺らぐことなんてないってね」
「……や、やけに自信たっぷりなのね……」
「ふふふ、だから、私からすれば、仮にあの方が、あなたからどんなに素敵なプレゼントをもらったところで、目くじらを立てる必要なんて、どこにもないの。
　むしろ、一つ多く、あの方の喜ぶ顔が見られるうえ、プレゼントがかぶらないようにできるんですもの。ありがたい話だわ」
「……そうなんだ。
　……今、私、ロザリアとお目当ての相手が同じでないことを、心の底から祈っているわ……」
「おほほほ、そうだといいわね」

　そう言って、ロザリアは美しく明るく笑い、反対にアンジェリークは、暗い顔で、一つ深いため息をついた。

　……果たして二人の女王候補の恋と友情はどうなっていくのか、無事、素敵なバレンタインを迎えられるのか、それはまた、別の話。

エンディング２
　〜なんか聞いてもないのに自慢された気がする話〜

選択肢に戻る→☆６へ

あとがきを読む

☆８

「……か、か、か、かまわないわよ」
「……本当に？」
「え、ええ、だって……私、今、別にお目当ての人なんていないもの」
「そうなの？……でも……ティーカップはカタカタいってるし、目は泳いでるし、なんていうか、その……すごく、動揺してるみたいに見えるけど……」
「そ、そう？ちょっと冷えてきたからじゃないかしら」
「そ、そう……かしら？」
「そ、それによ、アンジェリーク。仮に同じ方に渡すとしたら、むしろお互い、さしあげるものが同じにならないよう、気をつけた方がいいんじゃなくて？……相手の身になって考えたら、いくら好みとはいえ、同時にたくさんもらったら困るってもの、あるでしょう？」
「ああ、それは……たしかにそうね……」
「……じゃ、決まりね、もしお菓子を作るとしたら、ここのキッチンを借りることになるし……その前に、作るのなら材料、作らないにしても、プレゼントなんか、そろそろ買っておかないと、ダメじゃない？」
「あっ、そうよね、材料も、直前になると売り切れてることも多いし……この飛空都市だと、きっとそこまでたくさんの数はないものね。
　うん、じゃ、ロザリア、とりあえず何がいいか、何が必要になるか、今のうち、一緒に決めましょ？」

　……こうして二人の女王候補は、バレンタインに向け、共に準備にいそしむことになった。

　動揺し、思わず「目当ての人なんていない」と言ってしまったばかりに。
　しばらくの間、ロザリアは必要以上に「お目当て」について、アンジェリークに隠すハメになり、バレンタインまで、さまざまな苦労を伴うことになったのだが……それはまだ、少し、先の話。

エンディング３
　〜口はわざわいのもと〜

選択肢に戻る→☆６へ

あとがきを読む

☆９

「……そうね、そのときは……断るわ」
「ええ？そんなにはっきり？」
「だって、言ったじゃない『よっぽどの理由があれば別』って。これはそのよっぽどの理由よ。
　それに、考えてもみなさい。
　あなたがとっても仲良くしてる守護聖様が、急に『別の守護聖が渡してって』なんて言って、別の守護聖様からの、高価な、好意を感じる、心のこもったプレゼントを、あなたに渡してきたら……あなた、どう思う？」
「……う、うーん……たぶん……モヤモヤするわ」
「でしょう、仲の良かった守護聖様にもモヤモヤするし、そのプレゼントをくれた別の守護聖様のことも、好きになったりはしない、むしろモヤモヤするでしょ？
　……そういうことよ、自分も守護聖様も、誰も幸せにならないの。そんなことしてもいいことないわ」
「それは……そうかもしれないけど」
「そんなことやって下手したら、バレンタインに二人同時に失恋よ？そっちの方がいい？」
「そ、それは嫌！絶対嫌！」
「でしょう、私だってそうよ。……それなら、最初から話がこじれるような、おかしなことはしない方がいいわ」
「それはそうだけど……ロザリア？」
「何？」
「同じ方に渡す渡さないって話は、やめるとして……ロザリアの作ったお菓子、食べたいから……友チョコ？って形で、交換は……してくれる？」
「……それは、いいけど」
「やったあ！うふふ、楽しみ！」
「……でも、バレンタインって、そういうものなの？友チョコとか、私、聞いたことないんだけど」
「そんな、いいじゃない、楽しければ！女の子同士だとしても、好きな人にあげるのは、別にかまわないでしょ？ロザリアに負けないように……は、無理かもしれないけど……せめてロザリアのくれるチョコやお菓子に恥ずかしくないように、私、頑張るから、ね！」
「……嬉しそうに……まったく、お気楽でいいわね、あなたは」

　こうして、二人の女王候補は、バレンタインに向け、共に準備にいそしむことになった。
　果たして無事にお菓子はできあがるのか、そして二人の恋と友情はどうなっていくのか……それはまた、別の話。

エンディング４
　〜おかしなことになる前に無事阻止した話〜

選択肢に戻る→☆６へ

あとがきを読む

（以下あとがきコメントにつき注意。読みたくない方は下のリンクか「戻る」機能使って逃げてください。）

　Twiiterのワンライ企画（基本１時間以内に小説などを完成させる企画）「#アンジェ深夜のポットラックパーティー」の参加作品。2023年２月のお題が『チョコレート』と『トリック』と『謎を解く鍵』で、『チョコレート』。

　どちらかと言うとチョコよりバレンタイン強めなイメージですし、細かく言うとアンジェ世界にバレンタインはないか、あってもそんなに大きなイベントではない……ような気もしますが、リアルタイムで２月のワンドロ企画と言うことで、バレンタインネタにしちゃいました。テキストのみ、スマホのストップウォッチ機能使って1時間40分。＋１時間までは時間超過OKなのでがっつり甘え。選択肢とか分岐などの作業のあれこれは時間に含んでませんし、サイト用のこちらはいろいろと修正してあります。

　何故分岐？と言われれば書きたかったからです。ただそれだけ。特にばあやさんの部分が。……お付き合い、ありがとうございました。