すべてがうまくはいきはしない

　……セントシュタインの酒場に登録した理由は、いや、そもそもオレが生まれてきた理由はただひとつ。
　強くなって、名をあげる。
　そしてそこにいい女がいれば、もっといい。

　だから修行をして試練に合格し、武闘家になってすぐ、セントシュタインまでやってきた。
　セントシュタインの酒場には、山ほど冒険者が集まっている、そうウワサで聞いていたからだ。

　武闘家になった、それだけではまだまだ弱い。
　もっと、もっと強くならなければならない。
　そのためには、実戦で修行するのが、一番いい。

　聞くところによると、セントシュタインは大都会。
　人が多ければ多いほど、悪者退治、長旅、護衛、宝探し……そういった依頼が、そしてそういう依頼をうける冒険者も多いはず。
　理由なんかどうでもいい、一度でも多く戦いたい……そんなオレには、もってこいだった。

　おまけに、セントシュタインに着いてみれば、黒騎士騒ぎが起こってて。
　なんでも、黒騎士と呼ばれる悪者が、城の美しい姫様を狙って出没し、退治した者には、高額の報酬が出るとの話。

　――これはのらない話はない。

　 そう思い、酒場の女主人の制止も聞かず、オレは単身黒騎士を退治に向かい……次の日、カンオケの中で目が覚めた。
　……持ち金が少なく、半減したところで、たいした損害が出なかったのが幸いだったが。

　そして礼とともに教会を出て、オレは悟った。

　……黒騎士、それは今のオレが一人で勝てる相手ではない、と。

　――さて、どうするか。

　レベルを上げなければならないのは当然として。
　薬もいるし、強い武器防具もいる。
　それとも仲間を募るべきか。

　しかしオレ同様、カンオケになってこのセントシュタインに帰ってきた者たちはたくさんいる。
　今、それでもなお黒騎士を退治に行こうという根性のある……いや、無謀なヤツがいるか……？

　そう、酒場で考えていたときだ。
　登録した酒場の女主人が、オレに声をかけた。

　なんでも、黒騎士を退治したいと言っている旅人がいる。
　しかも、できるなら黒騎士退治だけにとどまらず、遠い故郷に帰るまでしばらくの間、旅につきあってほしいと言っているがどうだろう、と。

　……自分の条件にぴったりだ。
　当然、断る理由もない。

　話を受け、その旅人に会ってみれば、若い女。
　それもなかなかオレ好み。……自分の幸運に内心、拳を握った。

　話によると、他にも仲間を募るらしいが、それでも武闘家と言えば前衛職。
　長旅の間、パーティの攻撃力として、頼りにされることはまちがいない。
　そうして過ごすうちに、特別な感情が生まれても、おかしくはない。
　いや、むしろ生まれない方がおかしいぐらいだ。

　まだ幼さの残る、少年と言った方が近そうな僧侶の男と、ぱっちりとした目の魔法使いの女が仲間に加わるのを、適当なあいさつで流し、勝手な算段を立てていると、４人、平均的な冒険のパーティがそろったところで、オレたちを集めたその女が、パーティとなった全員をふりかえり、改めて、と前置きし、名を名乗った後、言った。

　「私、ここに来る前はウォルロ村の守護天使をやってました。
　　今は妖精のサンディと一緒に、天使界に戻るため、人助けの旅をしています。

　　たまにおかしなふうに見えるかもしれませんし、長い旅になるかと思いますが、
　　みなさん、しばらくの間、よろしくお願いします」

　……平然と、何一つ曇りのない笑顔と瞳で、はっきりと。

　……これはツッコミ待ちか、むしろ笑うべきなのか、それともそういうキャラ作りなのか、と次の反応に困っていると、

　「本当ですか！？
　　うわあ、本物の天使様に会えるなんて、僕光栄です！」

オレのすぐ後ろに配置された僧侶が、きらきらとした目で食いついた。

　――いや、その反応はダメだろう！

　こちらのツッコミも待たずに、僧侶は彼女にすごい勢いで突進し、その顔を見上げ、輝かんばかりの視線をぶつける。

　「あ、いえ、一応最初だから正直に言ってみただけで、
　　そこまで信じてもらわなくても結構なんですけど……」

　「そんな！何を言うんですか！なんで疑う必要があるんです！
　　うわあ、嬉しいなあ、天使様の旅に同行できるなんて！
　　そうだ！僕、天使様に会ったら、いろいろ聞きたいことがあったんです！
　　天使界ってどういうところなんですか？普段何食べてるんですか！？」

　あまりの食いつきに若干うろたえてる自称天使の女と、無邪気に大声で質問ぜめを続ける僧侶を前に、半ば呆然としていると、横で同様に呆然としている、魔法使いの女と目があった。

　そして二人して、思わず乾いた笑みをかわす。

　――世の中、そうそううまい話は転がってないな。

　たった今積み上げた勝手なプランが、がらがらと崩れる音を聞きながら。
　オレはそう、誰にも聞こえないように呟いた……。

――fin

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