男の美学

　――いや、意地でもオレは認めない。

　不満げに口をとがらせる僧侶に、そう答え。
　続く不満の言葉から遠ざかるため、オレは無理やり、厚い毛布を頭からかぶった。

　初めて会った時、天使です、妖精と旅してます、そう自己紹介されたときは、面食らって。
　勝手に抱いた期待と好意が崩れるときは、こんな音がするのか……その女、これからの旅のリーダーとなる彼女を前にして、身をもって思い知った。

　しかし、一度話を受けてしまった以上は仕方ない。二人旅というわけでもないし、精神修行にもなるだろう……そう思い込むことにして、その旅に同行し。

　……確かに、不思議な出来事はたくさんあった。

　彼女の故郷まで行くという、見えない乗り物に乗せられて、次に目が覚めた時には、誰も来た覚えのない大陸にいて。
　女神の果実という、不思議なくだものを集めることになった、そう言われ。

　人が果実の力で化物になるのを、そして戻るのを目の当たりにしたり、あいつが見えない何かと話してる、そうとしか思えないことを知っていたり。
　おまけに最近では、あいつが近くにいるとき限定で、妙なものが見えるようになってきた。

　たとえば、宿に泊まることになって、夜に町を散歩していて。
　そこで墓場にさしかかった時、偶然歩いていた彼女に気づき、どちらともなく近づいた瞬間、急にその間に半透明な老人が出現する。
　驚くオレの前で、あ、お久しぶりです、お元気ですかー、いやいや、死んでるから元気もないが、変わらずやっとるよーと彼女と半透明の老人が、能天気な会話をかわすときたものだ。

　さらにこの前まで、とりあえず見えないが、あることはある乗り物、という感覚だったあいついわく「天の箱舟」が、最近うっすら見える気がする。
　まさかな、錯覚だろうと思いつつも、その目にうっすら映る外見を、あいつに軽く尋ねてみれば、そうだよ、とあっさり肯定される始末。

　……他にもいろいろあるし、確かにあいつに、不思議な力はあるかもしれない。

　というか正直、今となっては、別にあいつが天使だということに異論はない。

　たぶんあいつは、最初からずっと本当のことを言っていただけなのだろう。
　勝手にウソと決めつけ、悪いことをした、そう思ってるし、たぶんそれもないだろうが、あいつがそれを望むなら、謝罪をしてもいいと思っている。

　だから、それは別にいい。
　……問題は。

　「ねえ、どう思います？やっぱりあれが、妖精のサンディさんだとは思いませんか？

　　金の髪で、褐色の肌で、頭に花飾りをしているように僕には見えるんですけど！
　　天使様の周りをよく飛び回っていて、なにか話してるような声も聞こえますし！」

　ひっかぶった毛布も無効化するほど大きな声で、オレに僧侶がたたみかけ

　「いーや、オレは見えん、認めん、このパーティに妖精なんて存在しない！」

……オレも負けじと、思わず大きな声で反論した。

　「なんでですか、天使様がいるんですよ、それはいいんでしょ？
　　なのになんで妖精さんだけ認めようとしないんです？」

　かぶったオレの毛布を、ひきはがさんばかりの勢いで。
　自論をまくしたてる僧侶に、オレは思わず起き上がって言った。
　
　「バカ、妖精ってのはもっとこう、かわいらしいものだろう！
　　見た目のみならず、チョーウケル、とかケド、とかいうヤツなんて、
　　オレは男の美学にかけて、絶対に妖精などという存在とは認めん！」

　「そういうの、心がせまいって言うんですよ！？いいじゃないですか言葉づかいの一つや二つ！」

　「認めないのも自由だろ！心がせまいのはどっちだ！？」

　……この押し問答はしばらく続き。

　隣部屋の女たちからうるさいと怒られ、見えないなにかにオレの髪を思い切り引っ張られるまで、延々と騒ぎは続いたのだった……。

――fin

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